▲荒子川公園から見るあおなみ線。立派な斜張橋です。
どこまでも続いているかのように透き通る青空。次第に寂しくなっていく季節を感じながら、今日は、まだ新車の香りが漂う列車に揺られ名古屋駅から海を目指します。高架を走る列車の車窓からは、どんな名古屋を見ることができるのでしょうか...。
あおなみ線に乗ろう!名古屋駅の西側から港へと続く新路線
名古屋市は、昔から東へ東へという開発を行ってきました。市域自体も旧名古屋市の東側にあった市町村を多く合併して拡大しましたし、地下鉄の路線も東へ東へと延伸してきました。千種、瑞穂区には高級住宅地が広がり、実際はひとくくりにできませんが、東は山の手、西は下町という印象が強いのは確かです。
中村区、中川区は近鉄名古屋線、JR関西本線が走っているものの、港区はほとんどの地域に電車は走っておらず、市バスが公共交通の主役を担ってきましたが、渋滞に巻き込まれ通勤には支障が出ることもたびたびありました。港区は住宅開発が積極的に進められており、鉄道を求める声が次第に大きくなっていました。
そんな名古屋駅の西側から港にかけて、西臨港貨物線の線路を利用して旅客鉄道を走らせる計画が立ちました。それが「あおなみ線」です。あおなみ線こと西名古屋港線は、名古屋市、愛知県、名古屋港管理組合、日本政策投資銀行、JR東海などが出資する第3セクター名古屋臨海高速鉄道が運営することになりました。会社設立は1997(H9)12月。それから7年弱の時を経て、2004(H16)年10月6日、ようやく開通となったのです。
▲各座席が区切られ、窓ガラスがUVカットで青みがかっています。
名古屋-Nagoya
名古屋駅。地下鉄の駅にも名鉄の駅にも、あおなみ線への案内はありません。JR名古屋駅構内に入るとようやく矢印が表示されます。あおなみ線の名古屋駅は太閤通口、新幹線のりば近くにあります。太閤通口から南へ、駅麺通り、マツモトキヨシを越えソフマップにつきあたったところを左に歩くと、真新しい券売機と改札口が登場します。
あおなみ線はトランパス対応のユリカ、そして名古屋市の敬老パスが利用できます。しかし市バス・地下鉄の一日乗車券は使用できません。地下鉄東山線のホームからこの改札まで、計ってみたところ徒歩で約7分かかりました。
▲名古屋駅構内のソフマップを向かって左に歩くと。
シルバーの車体に水色と青色がペイントされ、いかにも港を結ぶ列車という配色です。窓は大きくとってあるのですが、全てUVカット加工が施されているために窓も少し青色がかっています。座席は全て一人一人に切り込みが入っており、多くの人が座れるように工夫がされています。では、名古屋駅を出発です。
▲あおなみ線の改札が見えてきます。太閤通口から2分ほど。
JRや近鉄など既存の線路が何本も並ぶ中央を電車は走ります。これも元々貨物路線だったからこそ成せる技。新規路線ではこんなにいいところを走ることができるわけがありません。名古屋駅を出発すると、電車は大きく右にカーブします。背後にはツインタワー、そして右側にはJRの検車区、近鉄の米野駅が見えます。名古屋駅を出発して2分。次のささしまライブ駅に到着です。
▲案内表示の基本カラーは、エメラルドグリーン。
▲名古屋駅ホームの行先表示と時刻表。
▲ホームは地下鉄上飯田線と同じく二重扉。
▲北側の窓からは並走する近鉄名古屋線が見えます。
ささしまライブ-Sasashima-raibu
ささしまライブ。駅の右側はたくさんの線路、そして左側には広大な空き地があります。この旧国鉄笹島貨物駅跡地には現在、2005(H17)年に開催される愛・地球博のサテライト会場「デ・ラ・ファンタジア」が建設されています。ポケモンをテーマにした遊園地がメインとのことで、来年はたくさんの子どもたちでこの駅は溢れ返ることでしょう。
▲ささしまライブは周辺が全て工事現場。普段は誰も乗降しません。
しかし、今は全く何もありません。この駅を利用する人は皆無です。将来的には「商業・業務・文化・娯楽等さまざまな都市機能の複合的な土地利用を目指す」とのことで、結局のところまだ何も決まっていないというのが本音でしょう。
ちなみに、駅名表記はローマ字が基本なので仕方が無いのかもしれませんが「Sasashima-raibu」になっているのはどうもいただけません。そもそも「ライブ」って何?と思われるでしょう。正確にはここは「ささしまライブ24地区」と名付けられており、「24時間活動する=ライブ24」という意味なのだそうです。でもやっばり「raibu」はないですよね...。
▲JRセントラルタワーズ。西側にはビルが全く無いのがわかります。
ささしまライブを越えると、右側には高架化工事が進められている近鉄電車が目に入ります。当初の計画ではあおなみ線にも黄金駅を設け近鉄の黄金駅と接続する予定でしたが、高架化工事との兼ね合いから、駅の設置は見送られました。そして左側に名古屋高速万場線、JR東海の工場、そして住宅密集地が見えてくると次の小本駅です。
▲ここに万博期間中、ポケモン遊園地「ポケパーク」などができます。
小本-Komoto
駅の周辺は住宅が多いものの、田んぼも多くあり名古屋駅からわずか5分とは思えない環境です。近くの万町公園では親子がキャッチボール姿を見ることができたりと急に生活感が溢れます。近くには中央卸売市場高畑市場や、名古屋市交通局の軌道事務所があり地下鉄東山線の車両が地上にたくさん並んでいます。また鋼材工場も多く何か燃えてるような焦げてるような匂いもします。
▲名古屋駅から数分とは思えない住宅が広がります。
▲降りてみると、田んぼ、田んぼ、田んぼ。名古屋駅から5分ですよ。
▲親子がキャッチボールする声が聞こえてきた、万町公園。
荒子-Arako
小本から2分で荒子に到着です。駅は八熊通の上にあり、駅前にはスーパーナフコ、パチンコ店があり活気があります。八熊通を東に歩くと、現在の天皇陛下のご誕生を記念して1941(S16)年に開園した松葉公園があります。中川区最大規模の公園で、噴水が心を癒してくれます。
▲電車が通ったことで、こういう空地も開発されるかも。
そして八熊通を逆に西に歩き、少し南に歩くと荒子公園、尾張四観音のひとつ荒子観音があります。観音寺は729(天平元)年に草創されたお寺で、多宝塔は名古屋市内最古の建築で重要文化財に指定されています。1200体以上もの円空仏を所蔵していることも有名です。円空仏は毎月第2土曜の午後1時から見ることができます。
▲荒子駅前は綺麗に整備されました。この左側にナフコがあります。
▲路線の東側は、ここからずーっと中島駅まで貨物基地が広がります。
▲中川区最大規模の松葉公園。緑が覆い繁ります。
▲尾張四観音のひとつ荒子観音。
▲名古屋市内最古の建築で重要文化財、多宝塔。
南荒子-Minami-arako
先ほどの荒子観音から少し南西に行ったところに、あの前田利家が生まれた荒子城跡があります。現在は天満天神宮となっている場所です。荒子城は天文年間 (1532-55)に利家の父である利昌が築城したのですが、1575(天正3)年に利家が越前国府中(福井県武生市) に、その6年後に利家の子、利長もそこへ移ると同時に廃城となってしまいました。
場所としては荒子駅と南荒子駅の中間くらいなのですが、南荒子駅はこれくらいしか紹介するものが無いので、ここで紹介させていただきました。
▲このあたりは一戸建て住宅と、町工場が街を形成しています。
南荒子駅から中島駅にかけて、右側には大きなマンション群、そして将来マンションが建設されそうな空き地が点在しています。このあおなみ線の開通で開発はさらに進むでしょう。そして左側は、荒子駅から中島駅にかけてずっと貨物ターミナル駅となっていて、大きなコンテナとそこから荷物を運ぶトラックをたくさん見ることができます。
▲前田利家が生まれた荒子城跡。
その貨物ターミナルはこのあおなみ線の高架と同じ高さにあるのですが、そのターミナルの下にあるのがあの日本一のお店です。
▲大河ドラマが放送されているときに、開通していればねぇ。
中島-Nakajima
国道1号の上にある中島駅。駅の左側にはスーパーヤマナカ、パチンコ店があります。そして右側にあるのが、「すぐ乗って帰れまーす」のスーパージャンボです。スーパージャンボといえば常時在庫800台を誇る、日本一の軽自動車販売店です。置いてあるのは中古車と新古車です。
▲スーパーヤマナカやパチンコ店。国道1号沿いということもあります。
新古車といっても名古屋以外の方はピンとこないかもしれませんが、簡単に言うと登録済みの未使用車です。ここがポイントで、新車なのですがナンバープレートがついているわけです。だから、買って「すぐ乗って帰れまーす」なのです。テレビCMも頻繁に流していますが、あおなみ線の開通にともなって「名古屋駅から11分」というコメントが入るようになりました。
▲国道1号から中島駅を臨みます。
行きは電車で帰りは買った軽自動車。衝動的に、どうしてもすぐに軽自動車が欲しくなったらここです。
▲ヤマナカ、そして線路の向こうにあるスーパージャンボに便利。
▲線路から見ると、東側は貨物ターミナル駅。
▲道路広々、国道1号線。
▲実はスーパージャンボ、貨物ターミナル駅の下、1階部分にあります。
名古屋競馬場前-Nagoya-keibajo-mae
おそらく、このあおなみ線開通を一番心待ちにしていたのが、この名古屋競馬場と競馬ファンでしょう。このあたりは「土古(どんこ)」という地名が有名で、駅名も「どんこ」になるかと思いきや、名古屋競馬場の熱意によって「名古屋競馬場」となりました。ここ最近は地方競馬の財政難が話題になっていますが、名古屋競馬場も例外ではなく赤字が続いています。
▲推理とロマンの名古屋けいば。
かつて三重テレビの放送枠を買い取って放送していた競馬中継も経費節減のために廃止しました。関係者にとってこのあおなみ線は最後の望み、命綱なのです。今までは名古屋駅などから名古屋競馬場まで無料バスを走らせていたのですが、その経費は年間1300 万円。もちろんそれはこのあおなみ線開業と同時に廃止となったので、大きな経費節減にも繋がりました。あとはハルウララのような名物競走馬の登場に期待です。
▲電車の窓から見る東海通。見えませんが右奥が競馬場。
▲このあたりから市営住宅が増えてきます。
荒子川公園-Arakogawa-koen
駅の両側に巨大なパチンコ店、そしてそれを上回る規模の巨大ショッピングセンター「ベイ・シティ」があるのがこの駅です。
▲駅の目の前には巨大なジャスコ・イオンベイシティ。
ベイシティはジャスコ名古屋みなと店と120の専門店、そして20を越える様々なレストラン、12の映画館があるTOHOシネマズからなりその規模は半端じゃありません。3000台の駐車場を完備しているとはいえ、今までは土日ともなると慢性的な渋滞に悩まされてきました。しかし、電車ならば気軽に立ち寄ることができます。
▲目の前でも巨大なので、徒歩ですと結構かかります。
電車でイオンというのは名古屋っ子に限らず違和感があると思いますが、そんな新しい人の流れが生まれるのか注目です。
荒子川公園駅を出発するとガラっと風景がかわります。右側には巨大な中部電力の寛政変電所、物流倉庫、右側も巨大な工場が並びます。そして広大な空き地を開発している様子が見えてくると稲永駅です。
▲シネコンも併設。さらにはスーパー銭湯まで。
▲荒子川公園駅周辺は、パチンコ店の密集地でもあります。
▲荒子川公園の近くには、ミドリ電器も。
▲公園の南端、南国気分のフェニックスアイランド。もう稲永駅が近い。
稲永-Inaei
駅前に建設されているのは、名古屋市内最大規模となるホームセンターカインズホームを中心とするショッピングモールです。周辺には開店してすぐに閉店してしまったドラッグストアがあったりと、不安定な要素もありますが土地がたくさんあるだけに今後この駅周辺は大化けする可能性があります。
▲稲永付近からは工業の香り。こちらは中部電力寛政変電所。
駅から少し距離はありますが、市営住宅が密集していてこれら住民にとっては久々の電車となります。なぜ久々かといいますと、かつて稲永までは市電が走っていました。35 年ぶりにこの街に電車が帰ってきたのです。
▲住み込み住居付きのトラック基地。
線路と並行する道路に南国風な樹木が並び、左側にバスターミナル。右側にあおなみ線の車庫、そして名港トリトン、遠くにガーデン埠頭の観覧車やポートビルが見えてくると野跡駅です。
▲稲永駅前は大規模な開発が行われています。
▲次第に工場が増えていきます。
▲鉄道開業までもたなかった、閉店したドラッグストア。
▲これまでは唯一の交通手段だったバスが走る金城ふ頭線。
野跡-Noseki
市バスは「のぜき」と濁るのですが、あおなみ線は「のせき」です。近くに港サッカー場のある汐止公園が見えます。真新しい大きなマンションに見える建物は実は市営住宅。最近は市営住宅といってもそれを感じさせない建物が増えてきています。汐止公園からはラムサール条約地の藤前干潟を望めます。
▲野跡駅前。街路樹が南国。
藤前干潟は日本最大の野鳥飛来地で、その広さは90ヘクタール。そんな豊かな自然を眺めながら潮風を感じ、都会の喧騒を離れリゾートマンション風の市営住宅のベランダで夕日を浴びる休日。何て素敵なのでしょう。それでも名古屋駅へはたった21分。これは好環境です。
▲バスターミナルは、の「ぜ」きです。
あおなみ線はいよいよ終着駅、金城ふ頭へと向かいます。ここで最高時速110キロにアタックです。右側には新旧の市営住宅がずらっと並び、左側には名港トリトンの中の白い橋、名港中央大橋が見えてきます。次第に輸出用の自動車の大群が見えてきて、トリトンをくぐると終着駅の金城ふ頭です。
▲市営住宅とは思えない、まるでリゾートマンション。
▲汐止公園にある港サッカー場。
▲藤前干潟を対岸から見ました。遠くに見えるのが野跡の市営住宅。
▲いよいよ時速110キロで名港トリトンをくぐります。
金城ふ頭-Kinjo-futo
金城ふ頭は現在、物流基地がほとんどなのですが、このあおなみ線に大きな期待をかけているお店が1軒だけあります。かつてここには1999(H11)年にダイエーが会員制ストア「Kou's」をオープンしたのですが2年で閉鎖してしまい、その跡地に2001(H13)年、やすいかぐが巨大家具販売店をオープンしました。それがファニチャードームです。
▲野跡駅から先に住居はありません。完全に工業地帯。
あおなみ線の名古屋駅の広告や、車内広告はほとんどがファーニチャードームによって買い占められており、必死さが伝わってきます。2006(H18)年には巨大アウトレットモールもオープンする予定なので、ファーニチャードームとしては、「ようやく先行投資の回収の見込みがたってきたぞ、金城ふ頭の時代がきたぞ」といったところでしょうか。
▲終点、金城ふ頭駅。
そして、この金城ふ頭の目玉施設といえば、ロサンゼルス通り、南京大路、メキシコ大通りという名古屋市姉妹提携都市の名をただつけただけの道路、ではなくて、ポートメッセなごや(名古屋国際展示場)です。
▲金城ふ頭駅のみ、強風に配慮してホームが完全室内状態。
ポートメッセなごやでは、平日は産業機器の展示会や、休日はマンモスフリーマーケットなどが開かれています。かつて金城ふ頭へは市バスか自動車でしか行くことができず、自動車では距離があることや、駐車場が有料なことからバスで来る人が大半を占めていました。
▲あおなみ線に最も賭けていると思われる、ファニチャードーム。
名古屋駅からバスでここまで来るとなると、かつては名古屋駅から地下鉄東山線で栄駅へ、そして名城線(現在は名港線)に乗り換えて築地口駅まで行き、そこからさらに市バスで金城ふ頭まで行くというルートとなり、スムーズに行ったとしても45分はかかっていました。
▲金城ふ頭には出港を待つ、新車がたくさん待っています。
▲様々な、さまざまなイベントが行われる、ポートメッセなごや。
ようやく金城ふ頭に光が...
しかも、マンモスフリーマーケットといった人気イベントとなると、本当に多くの人が同じような時間に集中してやってくるので、ピストン輸送でもバスに乗り切らないという光景をよく見かけました。それがこれからは名古屋駅から電車で24分乗り換えなしとなりますから、とても便利になります。というか、今までがおかしかった気さえします。バスでしかいけないようなところに国際展示場を建ててしまったこと自体が...。
ところで、このポートメッセなごやで開かれるイベントの中で、一番集客力があるものといったら何だと思いますか。実はマンモスフリーマーケットではなく、同人誌の即売会なのです。同人誌即売会が開催されている日の金城ふ頭は、アニメのキャラクター服装をした人、いわゆるコスプレイヤーで溢れ返り、それはそれは独特な世界が繰り広げられます。
あおなみ線は可動式ホーム柵が設置されていて、ホームドアと電車のドアの二重構造になっているのですが、この金城ふ頭駅のみは港で風が強いことから、ホーム自体が屋根と扉で覆われていて、室内のような状態になっています。
日曜日の夕方、家具を見にきたつもりが偶然にも同人誌即売会終了時間と重なった場合、この駅で濃い集団に揉まれることになりますので気をつけたいところです。たぶん、そういう日はこの駅のトイレでコスプレの衣装に着替えたりする人たちがいっぱい出現するのでしょうね。でも、あおなみ線はそれらの人々の利用も見込んでの開業ですから。
名古屋駅からわずか24分、350円。全線高架なので景色も楽しめます。今まで知らなかった名古屋を発見できるかもしれません。今度のお休み、あおなみ線でおでかけしてみてはいかがですが。ただし、ポートメッセなごやのイベントスケジュールだけはチェックしておいた方がいいかもしれません。人込みに揉まれるのは嫌な人、そういう人込みに揉まれたい人共々...。