おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 の第50回です
「名古屋みゃーみゃー通信」というタイトルで連載をしてきましたが、多くの名古屋っ子はこのタイトルに嫌悪感を抱いたのではないでしょうか。
江戸ことばなら「てやんでい」「べらんめえ」。大阪弁なら「おおきに」「なんでやねん」。博多弁なら「ばってん」といった具合に、方言にはそれらを代表する言葉、他の地方の人がイメージとして持っている言葉があります。地方に旅行へ行った際、そういった言葉を実際に耳にすることで地域性を体感することができます。
みゃーみゃーなんて言っとらん?
名古屋弁といって全国の方が思い浮かべるのがこの「みゃー」と「えびふりゃー」でしょう。他の地方の場合、例えば生粋の江戸っ子に「てやんでいって言うの?」と聞いても「今は言わないよ。」と軽く流されるでしょうし、大阪人に「なんでやねんって言うの?」と聞けば「そんなん当たり前や。」と答えられることでしょう。しかし、名古屋っ子に「みゃーみゃー、えびふりゃーって言うの?」と聞くと、大抵の人は激怒したり猛烈にそれを否定します。
否定する場合は、「みゃーみゃーなんて他の地方の人が言うだけで、実際名古屋では誰も言わん。ドラマやアニメで『そうだみゃー』『食べるみゃー』『違うみゃー』とか言うけど、あんなの嘘嘘嘘。」となぜか語気が強くなり必死に否定します。
そして激怒する場合は、「えびふりゃーなんて誰も言わんわー。大体タモリがそういうことを言うもんだで、勝手にえびふりゃーというイメージがついてまったんだわ。名古屋っ子はえびふりゃーとも言わんし、海老フライをよく食べるわけでもないし、海老フライは名古屋の名物でも何でもないわ!」と顔を真っ赤にします。
なぜそんなに必死になるのか
確かに名古屋っ子は「そうだみゃー」などという不自然な「みゃー」は使いませんし、海老フライのことを「えびふりゃー」だなんて言ったりしません。しかしなぜ怒るのでしょうか。そこには名古屋っ子お得意の被害妄想があります。
名古屋っ子は常に「名古屋は馬鹿にされているかもしれない。」という固定観念を持っていて、他の地方の人にどんな些細なことでも名古屋について何か言われると、批判、嫌悪、嘲笑していて言葉の裏にそれが隠されているのではないかと勘ぐります。
「みゃーみゃー、えびふりゃーって言うの?」と普通に聞かれただけでも、「どうせいつも猫みたいにみゃーみゃーみゃーみゃー言ってんだろ。海老フライのことをえびふりゃーって、馬鹿じゃないの。やっぱり名古屋は田舎なんだよ。認めろよ。なあ、認めちゃえよ。」と名古屋っ子は脳内で変換しているのです。
そのため名古屋っ子はその質問に対して怒り、必死に否定するわけです。
そしてその相手が、例えば埼玉県人なら「埼玉には空港が無いだろう、でも名古屋にはあるぞ。」、東京都民なら「東京タワーが高いって言ったってなあ、名古屋のテレビ塔の方が先に出来たんだ。日本初のテレビタワーは名古屋なんだよ。」、北海道人なら「札幌の街は名古屋をモデルにして作られてるんだぞ。」、そして福岡県民なら「福岡なんて本州じゃないくせに。」とわけのわからない理論で相手を馬鹿にします。
質問をした相手は、名古屋っ子がなぜ怒ったのかわからず最初は戸惑いますが、いきなり名古屋を自慢し相手の街を馬鹿にする名古屋っ子の行動を見て、もう名古屋の話題には触れないようにしよう、名古屋っ子にはかかわらないようにしようということになるのです。
これでは、名古屋は全国から相手にされなくなって当たり前です。
よく思い出してみやー
まず「えびふりゃー」という言葉についてですが、これはタモリさんが考え出した言葉だという事実は間違いありません。タモリさんは方言に限らず、外国語など雰囲気を似せた言葉を話すネタを当時よくやっていました。
「えびふりゃー」のネタ元は、名古屋の金鯱に形が似ている海老フライを名古屋っぽく発音したことから始まったなど噂はいろいろありますが、理由はどうあれ、実際は名古屋でそう呼ばれていないにもかかわらず名古屋っぽい発音であることに間違いありません。何が名古屋っぽいのでしょうか。
東京に住む名古屋っ子が、東京人に対して「今の名古屋っ子は、みゃーみゃーなんて言わないよ。」と言いきった後、何かの機会でその東京人を、いざ名古屋へ連れてきて観光案内し、名古屋お得意のコメダ珈琲店で休憩したりしていると、東京人は何かに気づきこう言うでしょう。
やっぱり言ってるじゃん。みゃーみゃーって
すると名古屋っ子は断じてそれを否定します。
名古屋っ子 「ほんなことあれせん。みゃーみゃー言っとるやつなんて、おれせんわ!」
東 京 人 「そう?あちこちで聞こえるんだけどね。」
名古屋っ子 「そんなこと言っとらんと、はよ、コーヒーのみゃー。」
東 京 人 「それ!今言った!。」
名古屋っ子 「え?どこがー。」
そう聞こえるのだから…
そう、東京人が「みゃー」と聞こえるのは、名古屋っ子が、「○○したら?」「○○したほうがいいよ」「○○しなさい」などに使う、接尾語の「ゃー」が、マ行についた「みゃー」なのです。「飲みゃー」「してみやー」「食べてみやー」などとも使われます。他にも「食べやー」「聞きゃー」「やりゃー」「しやー」「寝やー」「行きゃー」「走りゃー」「歩きゃー」「乗ってきゃー」言い出したらキリがありません。
この「ゃー」は、一筋縄では標準語に訳せないとても曖昧な言葉です。しかし、その曖昧さが使いやすく名古屋っ子は多用します。それは言った相手に都合のいいように受け取ってもらえるからなのです。
例えば、子どもが宿題をちょうどやろうとしているときに、「宿題しなさい」と言われるとヤル気をなくしてしまいますが、「宿題やりゃーよ」と言えば、親は命令で言ったとしても言われた子どもは「やったほうがいいよ」というニュアンスで受け取めうまくいくというわけです。しかし、親が親切で言ったことを、子どもが命令と受け取った場合は逆ギレする可能性もあり、受け手の機嫌にとても左右されます。
「飲みなさい」⇒「飲みゃー」(強めに発音する)
「飲んだほうがいいよ」⇒「飲みゃー」(やさしく発音する)
また、微妙な使い分けも存在します。
「飲みゃー。」
「飲んでみやー。」(味がわからず、初めて飲む場合)
「飲みに行こみゃー。」(飲みに行くこと自体に誘う)
さらには変化形で、「飲もまい。」(飲みに行こみゃー⇒行こまいの短縮形)というのもあります。
他にも、「お前」のことを「おみゃー」と言ったり、「狭い」を「せみゃー」、「ウマイ」を「うみゃー」など、結局のところ、名古屋っ子の会話にみゃーみゃーは数多く登場するのです。使っているつもりは無くても相手にはそう聞こえる。それは使っているということです。名古屋っ子が思うほど、全国の人々は名古屋を馬鹿にしていません。なのに勝手にそう思い込み、ムキになるから名古屋は馬鹿にされるのです。まずは「みゃーみゃー」言っていることを認めることから始めましょう。だから「名古屋みゃーみゃー通信」なのです。
東 京 人 「名古屋ってみゃーみゃー言うの?」
名古屋っ子 「言わないよー。」
東 京 人 「え、そうなの?」
名古屋っ子 「それより、はよ遊びに行こみゃー。」
東 京 人 「やっぱり言うじゃん。」
二人揃って 「あはははは。」
それでええがや。
▲名古屋っ子なら、どれか一つは使った心当たりがあるでしょ?
関連情報
この「おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信」をもとにした本が出ています。
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