トッピーの放送見聞録 放送事情レポート

順序が逆?地域FMよりも後に県域FMが開局した珍しい街・多治見のFM-PiPiの背景は

記事公開日:2017年1月6日 更新日:

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★県単位のFMラジオ局と市町村単位の地域FM
★現段階で最も遅く民放県域FMが開局した岐阜県独特な事情
★地域FMが先だったから「FMはローカル」意識が強い

 電波で聞くラジオ放送には「AM」と「FM」があります。AMラジオ局はすべて、県単位以上の広いエリアをカバーする存在ですが、FMラジオ局には「県単位」の県域FM局と「市町村単位」のコミュニティFM局の2種類があります。

 ほとんどの地域では、県単位のラジオ局が先に開局し、あとから市町村単位の局が開局しているのですが、日本国内に4ヶ所だけ、コミュニティFMよりも後に県域FM局が開局した地域があります。

 そのうちの一つ、岐阜県多治見市のFM-PiPiに行って見学と出演をしてきました。

県域FMの開局が現段階で最も遅かった岐阜県

 NHKや実験局を除き、現存する民間県域FMラジオ局で最も開局が早かった都道府県は愛知県で、1969(S45)年12月24日に愛知音楽エフエム放送(現:@FM)が開局。それから31年後、2001(H13)年4月1日に岐阜エフエム放送(現在はFM岐阜に免許継承)が開局し、現状では、最も遅くに開局した県が岐阜県となっています。

 なお、茨城県、和歌山県、奈良県には今も県域FM局が存在しません。

 一方で、市町村単位の小規模なラジオ局「コミュニティFM」が1992(H4)年1月に制度化され、その年の12月24日に北海道函館市で第1号が開局、FMラジオは「県域」と「コミュニティ」の2種類が混在することとなりました。

 ほとんどの地域では、先に県域FM局があったところに、コミュニティFM局が後から開局しているのですが...。

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県域よりも先に開局した多治見と高山

 一般的なパターンとは逆となる、地域のコミュニティFMよりも後に、県域のFMが開局した地域は、岡山県の倉敷市と岡山市、岐阜県の高山市と多治見市のわずか4ヶ所です。

 そのうち多治見市は、岐阜県の南部・旧美濃国の東側に広がる東濃地域を代表する人口約11万人の街で、愛知県の春日井市・瀬戸市と隣接し、また、岐阜県の県庁所在地である岐阜市から離れている一方で、交通の面でも行政の面でも名古屋市との結びつきが強いという特徴があります。

 この街にFMラジオ局が開局したのは、1998(H10)年10月1日のこと。株式会社エフエムたじみが設立され「FM-PiPi(エフエムピピ)」という愛称にて、76.3MHz(20W)にて放送をスタート。コミュニティFMとして取り立てて早期に開局したわけではありませんが、岐阜県は県域FM局の開局がずれ込んでいたため、県域よりも先に開局を果たしています。

 本社・スタジオを構えているのは土岐川沿いにある多治見市産業文化センター。ここではフェアやセミナーが行なわれることが多く、私もこれまで就職フェアや海外分析セミナーなど何度か来たことがあります。

 社名にも「多治見」と入っており、多治見市のみを放送区域とするコミュニティFM局ですが、実際には電波は飛んでおり、東濃地域を広くカバーしています。

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地域全体をカバーするFM局

 FM-PiPiの電波は、春日井市や犬山市との境に近い高社山から発射されており、多治見市にとどまらず土岐市や瑞浪市、また御嵩町や春日井市などにも広く届いています。そのため番組も多治見市提供のものだけでなく、土岐市の行政番組も放送されており、さらに東濃地域には他にコミュニティFM局が無いことから、東濃全体を守備範囲とする広域コミュニティFM局という側面もあります。

 このあたりは、可児市・美濃加茂市・御嵩町を区域としながらも中濃全体の地域番組を流すFMらら、高山市だけでありながら飛騨全体をイメージするHits-FMなども同様で、岐阜県のコミュニティFM局は市町村単位ではなく地域を広域で受け持つ印象があります。

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岐阜県初・中日新聞と岐阜新聞の両方のニュースを流す

 岐阜県のメディア事情は複雑なものがあります。新聞・ラジオ・テレビともに全県が名古屋発の傘下にありつつも、岐阜県だけのメディアもあり、その背景には名古屋の中日新聞と岐阜の岐阜新聞の壮絶なシェア争い、すべてが代理戦争の様相を呈しています。

 さらに、岐阜アイデンティティの強い「岐阜地域」「西濃」、名古屋と岐阜の微妙のバランスのもとにある「中濃」「東濃」、そして岐阜よりも名古屋の影響が強い「飛騨」と、地域によって岐阜色に違いがあります。

 名古屋発のメディアは中日新聞、岐阜発のメディアは岐阜新聞という棲み分けがしっかり出来ていたなかで、岐阜の県域FMはどちらが主導権を握るのか...。

 岐阜新聞側は傘下の岐阜放送にFM準備室を設け、中日新聞側は岐阜市に本社を置かせないようにと画策し、その綱引きもあって、岐阜の県域FMの開局はずれ込んでいたのでした。

 その背景のなかで、まず動いたのが飛騨・高山でした。1997(H9)年7月19日に岐阜県初のFM局となる「飛騨高山テレ・エフエム(Hits-FM・76.5MHz/20W)」が開局します。それまでFMはNHKしかなかったなかで、初の民間FM局のインパクトは強く、浸透も早く、結果としてそれまで岐阜新聞の岐阜放送ラジオが行なっていた高山ローカル放送が休止に。そんなHits-FMでは「中日新聞ニュース」だけが放送されています。岐阜よりも名古屋の影響の方が強いことが見て取れます。

 次に開局したのがこの「エフエムたじみ(FM-PiPi)」です。多治見市は名古屋市との結びつきが強い一方で、美濃を代表する都市、岐阜の顔となる都市のひとつでもあります。その背景もあってか、FM-PiPiは史上初の「中日新聞ニュース」と「岐阜新聞ニュース」の両方を流すラジオ局として開局。初の名古屋と岐阜の折衷放送局のなったのです。

 このモデルが、その後開局する県域FM局にも影響し、岐阜エフエム放送も同様の形態となりました。

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地元密着度が高く公共性も高い

 多治見市ではAMラジオ局はいくつも入りますが、FMラジオの環境は良くありませんでした。2016(H28)年11月にようやく改善されましたが、名古屋のFM局は入ることは入るもののクリアに聞くことができず、高山市と同様に、FM-PiPiが初めてクリアに聞けるNHK以外のFM局という存在になりました。

 そのため、多治見では「FMといえばPiPi」という印象が強く、県域よりコミュニティが先に開局したことでFMのエリアの概念が薄く、さらに、後に開局した岐阜エフエム放送が、岐阜市ではなく大垣市に本社を置いたことで距離感があるなど、他の地域とは異なる感覚が市民の間に広がりました。

 また平日は、再放送を含めて毎日2時間20分と長時間にわたる、多治見市提供の市政情報番組が放送されており、エンターテインメント性がありつつも、公共性の高い放送内容となっています。

 FM-PiPiは2012(H24)年5月1日よりインターネットサイマルラジオ放送を開始。これについても、岐阜エフエム放送はずっとradikoに参加しなかったこともあり、岐阜県のFMラジオ局で初のインターネット同時放送実現となりました。

※岐阜エフエム放送はFM GIFUに免許を承継後、2016(H28)年4月1日よりradikoに参加しています。

 FM-PiPiは地域初の民間FMラジオ局であり、かつ、岐阜県で初めてインターネットサイマル配信を行なった民間FMラジオ局でもあるというわけです。

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ゲストとして出演させていただきました

 今回、FM-PiPiにお邪魔したのは見学だけでなく、ゲストとして出演させていただいたからでした。正午から午後2時まで放送されている「PiPiっとcafe」の金曜日、PiPiっとエンタメのコーナーです。

 PiPiっとcafeの金曜日は、名古屋を中心に活躍されているタレントの武田治彦さんが担当です。武田さんといえば、テレビのダメ夫再現ドラマや手芸センタートーカイ「カントリードール」のCMでよく拝見していましたし、最近でもパチンコ店tamakoshiの「いつかは、玉越。」のCMで延々と声が続くリングアナ役で「登場篇」のメインを張っていらっしゃいます。

 武田さんによる「あの時代」感たっぷりの選曲と、次々と電話を繋いでの地元の生の情報、中継を織り交ぜてのワイド番組となっているのですが、そのすべてをワンマンで捌かれるのが、さすが老舗コミュニティFM局でもあり、構成作家として在名局でも活躍されていたという、ラジオの表も裏も知る武田さんならではです。

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 PiPiっとエンタメのコーナーでは、私はどちらかといえば異色でして、普段は武田さんの人脈を駆使し、東海3県で活躍する地元の芸能関係の方が次々と登場。FM-PiPiのなかで最もバラエティーに富んだゲストが登場する時間となっていて、意外な人が登場することも。

 そして前述のとおり、名古屋と岐阜の両方の新聞社とパイプがあるため、FM-PiPiの番組表は中日新聞・岐阜新聞どちらの東濃版にも掲載されており、ゲスト紹介として私の名前も両方に載っておりました。嬉しい限りです。

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ひとくくりに語ることはナンセンス

 よく「コミュニティFMとは...」と、地域FMをひとくくりに語ってしまうことがあります。私にもあります。しかし、このような地域のメディア事情の背景や、地域の影響を受けている文化圏の違い、開局した順序など、それぞれのコミュニティFM局をとりまく背景はあまりにも違うことがわかります。

 隣県の愛知県にあるような、県域の随分あとに開局し、大都市圏にも程近いところにあるコミュニティFM局と、県域よりも先に開局し、影響は受けつつも大都市圏とは一定の距離を保っているコミュニティFM局では、空気も違えば生き方も違ってくるわけです。

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 岐阜県には、県域でありながら県庁所在地ではなく西濃に本社を置く「FM GIFU」があり、あとはコミュニティFMとして飛騨の「Hits-FM」、東濃の「FM-PiPi」、岐阜市の「FMわっち」に、中濃の「FMらら」と、バランスよくそれぞれの地方にFM局が配置されているため、FM GIFUが県域でありながらも、西濃という地域性が垣間見られるものとなっています。

 圧倒的に名古屋だけが求心力をもつ愛知県。一方で、県としてのまとまりよりも、名古屋と岐阜の力加減によって地域の性格が異なる岐阜県。コミュニティFM局の姿もまた、異なって当然だということがわかります。

取材協力

FM-PiPi(エフエムたじみ)

関連情報

「いつかは、玉越。」CM

FM-PiPi(岐阜・多治見市)MAP

岐阜県多治見市新町1丁目23

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