- 小規模ラジオ局がメディアとして地域のためにできること
- 県庁所在地から離れた地域だからこそ
- ステージの位置を間違えた…と思えるほどの想定以上の盛況
昨今、ラジオ業界の収益構造が厳しいという話は、多くの人が耳にされていると思います。都道府県単位のエリアをもつ「県域」や「広域」のラジオ局でさえ厳しいと言われているのですから、市町村単位で同様の商売をしているコミュニティFM放送局は、その厳しい局よりもさらに省力化・少人数で回さなければならないのが現状です。
そんな状況にありながら、地域にラジオ局があることの良さを少しでも地域の人に感じてもらいたい、「災害時のラジオ」だけでなく、普段から「地域ラジオがあると面白いね」と感じてもらうには…を模索しているコミュニティFM局のイベントを取材しました。
放送局にとって、初開催となったイベントのレポートです。
県庁所在地から離れた地域とメディア
岐阜県でありながら名古屋圏のベッドタウンとなっている可児市、古くから宿場町として栄えた美濃加茂市と御嵩町など、岐阜中濃地域をエリアとしているコミュニティFM局「FMらら」は、2012(H24)年7月に開局しました。設置された最も大きな理由は災害時対応。かつて死者が出てしまった大雨災害の際に、県庁所在地である岐阜市からも、広域放送局のある名古屋市からも遠く離れたこの地の情報発信が、ままならなかったことからです。
開局から3年が経過し、実際に災害時には特番対応を行い、訓練放送も市町と連携して実施、さらに、独自のアプリを専門会社と共同開発したことで、電波の届かないところでもラジオ放送が聞けるようになりました。ただそれだけでなく、災害情報を即座にスマホへとプッシュ通知できる仕組みを構築、地元自治体の広報もあり、「災害時はFMらら」というイメージは地域に広く定着しました。
しかし、ラジオ局は災害時だけのために存在しているわけでもなく、普段から地域の経済に貢献し、その上で営利企業として黒字を出さなければなりません。FMららは、これまでにも、地域のイベントや、ショッピングモールのイベント会場から生放送といった活動は行ってきたのですが、この秋、さらにもう一歩踏み込んで、地域のためのイベントを自ら開催する運びとなったのです。
ショッピングモールとの共催「キッズダンスフェスタ」
11月21日(土)、FMらら(FMラインウェーブ株式会社)と、ユニー株式会社のアピタ御嵩店を核とする地元のショッピングモール「ラスパ御嵩」が共同で設置した「RAraraダンスフェスティバル事務局」によって「第1回RAraraダンスフェスタ」が開催されました。
ラスパ御嵩は、かつてタイルメーカーの工場があった場所に2008(H20)年にオープン。ラスパとはフランス語の「Raffine(洗練された)、Sourire(ほほえみ)、Parc(広場)」からの造語で、「笑顔の人々が集まる特別な場所」を意味しています。
テナントに話題の店が多く、特に若い客層の需要にこたえるショッピングモールとして人気を集め、この御嵩をモデルに「RASPA(ラスパ)」は、愛知県東海市「ラスパ太田川」、石川県白山市「ラスパ白山」と展開。
そんなラスパ御嵩を会場として、FMららとの共催で開催された「第1回RAraraダンスフェスタ」。「RArara」はラスパの「RA」とららの「rara」から名づけられたものでした。
地元に縁のある方が続々登場
第1回RAraraダンスフェスタには、11組の地元キッズダンスチームが参加。中学生以下のみからなるダンスグループによるコンテストです。そのステージの前には、イベントとして楽しめる催しが。
まずは、ミステリックSHINYAさんによるマジックショー、マジックと言うよりもイリュージョンショーと言った方がいい大仕掛けなマジックに、観客の子どもたちは釘付けです。
続いては、FMららでパーソナリティも務めておられ、国内外で演奏活動を展開されているギタリストのトム兼松さんと、トロンボーン奏者のともぴょんさん、ボーカリストのかおりさんによるセッション。子どもたちが反応できる楽曲も多く、盛況でした。
いよいよ、第1回RAraraダンスフェスタの開幕です。まずは地元可児市在住のダンサー・りちぎさんによるパフォーマンス披露。ステージ狭しと繰り広げられるダンスは圧巻。会場からも大きな歓声です。
発表の場としてのダンスフェスタ
ダンスフェスタは、厳正に審査が行われるコンテスト形式。ダンサーのりちぎさんに加え、ラスパ御嵩、ケーブルテレビ可児、FMららからそれぞれ代表者が審査。創作力、技能力、表現力、構成力、印象点をそれぞれ算出します。
子どもたちのダンスは、かわいらしいものからクールなものまでジャンルも様々。年齢層も幅広く、本当に小さなまだ小学校入学前のお子さんから、中学生まで、多種多様なダンスが繰り広げられます。
事前にラスパ御嵩の店頭や、FMららの放送で告知していたものの、想定していた以上の観客に「ステージ設営の位置をもう少し後ろにすればよかった」という状況に。子どもたちのダンスには惜しみない拍手が贈られました。
もちろん、子どもたちの親世代である若い夫婦というラスパのターゲット層の来客や、そのおじいちゃん・おばあちゃんの来客を見込んでという、商業的な側面もありますが、その一方で、「子どもたちがダンスを披露する場を提供したい」という思いからの、地元にラジオ局があることの「良さ」を感じてもらうことも、放送局としては大きな目的だったとのこと。
溢れるほどの観客という結果は、その観客の皆さんが楽しんでいただけたことはもちろん、ダンスを披露した子どもたちにとっても、「これだけの多くの人の前でダンスができる」という、そんな場を提供することができたことが嬉しかったと、関係者の方の声。
そして大賞、準グランプリ、グランプリの発表。チーム名の発表がある度に、子どもたちは歓声をあげ大喜びする様子を見て、放送局とショッピングモールの関係者も大喜びの様子でした。
地域メディアがミックスのステージ
県庁所在地から離れた場所だからこそ、地元のイベントを様々な形で応援したいと、共催のラジオ局だけでなく、地域メディアがこのイベントに協力、イベント制作を手がける可児市の株式会社トイ・ファームと、御嵩町と可児市をエリアとするケーブルテレビ局の株式会社ケーブルテレビ可児が協賛。
トイ・ファームの手により、スムーズなステージ運行が行われ、イベント会場のMCと、ラジオ生放送の切り替えも自然に。FMららでは、この「RAraraダンスフェスタ」のもようを午前10時30分から午後3時まで4時間30分の生放送特番として放送。ただ、ラジオではダンスの模様が伝えられないため、それぞれのチームがダンスの披露をしている間、事前にインタビューをした子どもたちの声を流すという構成で番組が放送されました。
さらに、子どもたちが自分たちのステージを、改めてテレビで見られたほうがいいよねと、ケーブルテレビ可児がステージを収録。年末特別番組として12月26日(土)から31日(木)までの6日間、毎日午後2時と午後8時に1時間の枠で放送するとのことです。
地域の経済に貢献し、地域の子どもたちに発表の場を提供する。地域の小さなコミュニティFM放送局が、ショッピングモールと組んでこのイベントの開催に漕ぎ着けるには相当な苦労があったと思います。地元企業による地域のショッピングモール、地域のラジオ局、地域のイベント会社、地域のケーブルテレビ局がひとつになって、子どもたちに「夢」を届けたいという思い。果たして届いたのでしょうか…。その答えは、子どもたちの歓声だったのではないでしょうか。
「地域にラジオ局があって良かった」と思ってもらえることを、災害時以外にもどれだけできるか。苦しいといわれるラジオ業界ですが、地域の人や会社が集まることで、それが形になる。一つのモデルケースとしてレポートしました。
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