小倉トースト
コメダ珈琲店「小倉トースト」を注文するとこう出てきます。
「小倉あん...100円」
ここは甘味処だっただろうか。私はその張り紙を見て、我を失ってしまった。私は一生懸命冷静を保とうとした。落ち着けと自分に言い聞かせ、ようやく自分が今置かれている状況を思い出し始めた。目の前に座っているのは間違っても女の子には見えないオジサンである。まさかこのオジサンと二人で甘味処などに入るわけが無い。
そうだ打合せだ。仕事の打合せ中だった。打合せといえばそう、ここはコメダ珈琲である。張り紙を見てから数十秒、ようやく私は自分が喫茶店にいることを思い出した。
あんこの単品って...!?
それを思い出すと同時に、私はとてつもない不条理を感じていた。張り紙を見直す。間違いなくそこには「小倉あん」と書かれている。あんこである。白玉あずきでも宇治金時でもない、あんこの単品である。確かに名古屋っ子はあんこが好きである。だからといってコーヒーのおつまみにいくらなんでもあんこは無いだろう...なぁ。私は自分にそう問いかける。
名古屋についていろいろと学んできたつもりであったが、まさかあんこをペロペロしながらコーヒーを飲むという文化が名古屋にあるというのか。いくらなんでもそれは認めたくない。だとしたらあんこの単品は一体何のために存在するのか。私はもう気が気ではなかった。
コメダ珈琲店単品の「小倉あん」とはこれいかに?(本文とこのお店は無関係です)
名古屋であれば余程の田舎でなければ周囲を見渡せば必ずあります。近年関東地方にも進出。典型的な「名古屋の喫茶店」感を味わいたい方にのみオススメです。
それは無料サービス用オプションだった
名古屋っ子は基本的にあんこが好きである。三重県へ行ったという話を出すのであれば、手土産に赤福を持っていなければならないし、名古屋名物のういろにも、こしあんを混ぜた「ないろ」というものが存在する。ビスケットにあんこを挟んだしるこサンドも日常的に食べられている。トーストにもあんこを乗せて小倉トーストとして食べるのは当たり前である。
だからといってあんこをおつまみにコーヒーを飲むだなんて...。思い切って店員に聞いてみることにした。
「ああ、あれはですね。モーニングのトースト用です。」
なるほど。私は思わず膝を打った。
前回お話したとおり、名古屋では朝コーヒーを注文すると、トーストやサラダが無料のモーニングセットとしてサービスされるのである。そのトーストを、小倉トーストにしたいというお客のために、この単品「小倉あん」は存在しているというのである。納得である。
しかし、張り紙で書かれているだけでメニューに無いということは、客の要望によって生まれた「単品小倉あん」なのであろう。元々タダのものにオプションをつけてカスタマイズしてしまう名古屋っ子。その図々しささすがである。
気持ち悪いとか言わないように
コメダ珈琲店の人気メニューシロノワール(本文とは無関係)
トーストに小倉あんを乗せる。名古屋では当たり前の朝食風景なのだが、実は私は少々苦手である。私は普通にバターのみで食べたい。私がトーストを食べる時は、バターの風味が味わいたいためにトーストを食べていると言っても過言ではない。しかし小倉トーストは、バターの塩味とあんこの甘みが絡み合い、何ともいえない味が醸し出される。
名古屋っ子にとってはそれが良いのだろう。他人事のように思える私は名古屋っ子失格なのか。しかしである。
「パンにあんこなんておかしーよ。」
と名古屋っ子をゲテもの扱いすることを私は断じて許さない。なぜなら名古屋だけでなく、全国の人々はパンとあんこを一緒に食べているからである。「あんパン」だ。さらに、バターとあんこの組み合わせがおかしいとも言わせない。全国的に売られている菓子パンに小倉ネオマーガリンがあるではないか。パン、バターとあんこの組み合わせに異を唱えることができる日本人などいないはずなのだ。
バターとあんこを入れる器がちゃんと用意されている...あ、普通はバターとジャムを入れるのか。
もう一度、気持ち悪いとか言わないよーに!
それで私は、名古屋のあんこを全て理解したと勘違いしていた。あんこと名古屋の喫茶店の関係はそれだけだと私は思っていた。あのメニューの存在を知るまでは...。あのメニューとは、それ程多くの店では出されていない、いや、むしろ今となっては出している喫茶店を探す方が難しいかもしれないメニューである。それは「名古屋コーヒー」。
名古屋コーヒーとは、ウィンナーコーヒーの生クリームのうち、半分があんこになったものである。つまり、コーヒーの上に生クリームとあんこが浮いているものである。コメダの店員さん曰く、ウィンナーコーヒーと小倉あんを注文し、生クリームののったコーヒーの上に小倉あんをのせる人もごくたまにいるのだとか。
名古屋っ子のあんこ好きは留まるところを知らない。私はまだ恐ろしくて名古屋コーヒーを試したことは無い。やはり私は名古屋っ子失格なのだろうか。あんこが私を追い詰める。