中村区[6] 大門
駅西銀座をさらに西へと歩きましょう。すると則武本通に出ます。この信号はやたらと待たされますが、我慢強く待ちましょう。そして丸一ストアーを右手に中島町をまっすぐ歩きます。
振り返ると、昔ながらの商店街が続く景色の向こうに、まるで別世界に建っている様にJRセントラルタワーズが見えます。そしてさらに進みJOMOのガソリンスタンドが見えてくると、それまでの普通の商店街から雰囲気が変わってきます。では、その角を左方向、南へと曲がりましょう。
まずはバーチャルでお楽しみください-中村映劇
少し歩くと、異様な気配を放つ映画館が登場します。入口には人影が見えないようについたてが立ててあり、派手な色のポスターが目に止まります。今上映されている作品は「いんらん三姉妹」。そう、ここは成人映画の映画館・中村映劇です。
入口には大きな文字で「成人映画-18才未満は入場できません」と書かれています。しばらく眺めていましたが、人の出入りを確認することはできませんでした。ここから先は、旧遊郭街と生活感溢れる街が複雑に入り組む大門地区です。
▲中村映劇です。「いんらん三姉妹」入る勇気はチョットなかった…。
悲しみの観音さんに芸人根性を授かる-中村観音
かつては全国有数の遊郭街だった大門。今でもその名残があり、不思議な空気が漂います。その中村映劇の角を曲がると、右手に白王寺・中村観音が見えてきます。無縁遺骨を練り固めて作られたという本尊の観音様があります。
実は遊郭街と無縁仏とは密接な関係があります。病死・心中・折檻などで遊女が亡くなると、もともと遊女は身売りされている身なので無縁仏となります。この十一面観音様は、その無縁仏の遺骨で作られているわけですから、とてつもない重みがあります。東京の吉原にも同様のお寺があります。
▲遊郭には「おしおき部屋」があったところも…。そうして亡くなった遊女の遺骨を固めた観音様…。
ところでこの中村観音に、興味深いものを発見しました。「芸」という一文字か書かれた岩があるのです。これは松竹新喜劇の故・藤山寛美さんの発案によって、名古屋在住の芸人の足跡を称えるために建立された芸人塚で、「芸」の文字は御園座前社長の長谷川栄一氏によって書かれた物です。
名古屋の芸人であれば一度は訪れなければいけない場所です。芸人の他にも、習い事成就を願ってのお参りが絶えないそうです。名古屋でいまいちパッとしない芸人の方、ひょっとしてここにお参りしていないのでは?
ただ、場所が場所ですから、ピンク映画の看板を背にして手を合わせることになります。いや、芸人にはそれくらいの根性が必要ということですよね。キャバレーでの営業とかもありますし…。
▲文章を書くのも「芸」のひとつですよね。見守ってください!
遊郭の名残を感じる…-遊郭跡・大門横丁
周囲を見回しますと、ただの古い街並みかと思いきや、そのなかに「ソープランド」の文字が…。かつて遊郭街だったというだけでなく、現役のお店もたくさんあるようです。
そして少し南方向へと歩き、太閤通へと出ます。遊郭跡が紹介された本を読みますと、遊郭街には病院、旅館、銭湯、風俗店がつきものだそうで、ここ大門もそのとおりたくさんのそれらの建物を見ることができました。
名古屋市に2つある赤十字病院のひとつ、名古屋第一赤十字病院の建物も見えてきました。赤十字病院は1937(S12)年に開院しているのですが、遊郭とはあまり関係なさそうです。また、東京の遊郭跡に見られる派手な性病科の看板を掲げる病院は見当たりませんでした。
▲古い街並み…。奥にはソープランドのネオン…。
大門の交差点に向かう途中、右手に「大門横丁」というスナック街を発見しました。一見さんはお断りと言わんばかりの気配がします。明らかに昭和で時代が止まっていて、トタン屋根のアーケードに哀愁を感じます。しかし、壁は比較的綺麗だなと思ったらやはりそうで、数年前に火事で全焼し、建て替えられたのだそうです。
▲太閤通です。中村区の大通りの名前は面白いです。
そして大門交差点を右へと曲がると、遊郭街の中心地はもう目の前です。ところで、ここは大門(おおもん)と呼ばれているのですが、地名は大門町(だいもんちょう)です。
「おおもん」とはここだけでなく、一般的に遊郭の正面入口のことを指した言葉なので、それを正式な地名にすることに抵抗があったのかもしれません。
▲大門横丁。楽しい夕べが今夜も開かれることでしょう。
北へ歩いていくと、生活感溢れる通りが続き、次第に地元大手スーパー・ユニーの中村店が見えてきます。立体駐車場を完備している大きなスーパーで、夕刻だったので近所の主婦がたくさん買物に訪れていました。すると、ユニーの周辺の建物にも明かり灯り始めたのですが、私は目を疑いました。
ユニーの右隣、そしてお向かいもソープランドなのです。いくらかつて遊郭街だったからとは言え、この光景をすぐに受け入れることができませんでした。
買物を終えて袋を抱えて自転車に跨った主婦が、ソープランドの前を普通に走っていくのです。すぐ近くには笹島保育園、日赤愛知短大といった学校もあります。
ソープランドの近くで暮らす側も大変でしょうけれども、店に入る方もこの環境はちょっと抵抗があるのではないでしょうか。
▲ユニーの右側はソープランド。ユニーの奥もソープランド。
大門という街はかつて遊郭だったというだけではなく、今でも風俗店が街に入り込んでいます。しかし周囲を歩く人々は、それが当たり前で別に気にすることなく暮らしている様子でした。
では、旧遊郭街の面影を別の形で残す日吉町へと、ユニーからまっすぐ北へと向かいましょう。
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