触るとご利益 触ると祟り

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 ダイエーや香流中学校のある猪子石原から南を歩きます。さて、これまで「猪高」「猪子石」と何度も漢字で書いてきましたが、これらの地名の読み方で地元民かどうかを見抜かれます。そのまま読もうとしても難しいのですが、頑張って素直に読もうとすると「いだか」「いのこいし」になります。しかし地元では「いたか」「いのこし」と呼ばれており、猪高については「猪高台(いだがだい)」と「猪高町(いたかちょう)」という違う読み方の地名が混在しています。しかし猪子石については地名は全て「いのこいし」となっており、「いのこし」は病院名となっている程度です。香流中学校の南西にあるそのいのこし病院のとなりには、猪子石原中央公園があります。

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▲周囲より一段低い位置に作られた猪子石原中央公園。

 猪子石原中央公園は、周囲から一段下がったところにある真四角の空間です。実はこれ、矢田川の氾濫に備えた雨水一時貯留場なのです。大雨の際は危険ですから入らないで下さいという看板が設置されています。そして公園のすぐ横には、薬師寺と和示良神社があります。和示良神社は1592(文禄2)年に武内宿禰の子孫が創建したと伝えられています。当時は秀吉の海外出兵などの際にこのあたりが交通の要所として賑わっていて、安全と平和を願って神社を創建したのだそうです。明治の初めまでは「原の天神様」と呼ばれていました。学問、長生き、五穀豊穣にご利益があるとされ、伊勢湾台風で倒れるまでは、創建時に植えられた栃の木があったそうです。

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▲河川の氾濫を防ぐために作られたことを示す看板。
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▲壁も舗装された地面も白色が鮮やかな薬師寺。
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▲伊勢湾台風まで、創建時に植えた栃の木があった和示良神社。

 和示良神社から南へ、国道363号に出て東へ200メートルほど歩き、右折して南へ路地に入ると月心寺と猪子石神明社があります。立派な山門のある月心寺はかつての猪子石城の址にあります。私の母方の祖父祖母が眠っています。そして同じく城址にあるのが猪子石神明社です。

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▲猪子石城後に建つ、山門が立派な月心寺。
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▲城址のため本堂は周囲より高いところにあります。
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▲同じくこちらも城址に建つ猪子石神明社。

 猪子石神明社は正和年間(1312-1317)以前、一説によると874(貞観16)年に香流川沿いに創建されたもので、洪水に見舞われることが多かったことから、後水尾天皇時代(1611-1629)に現在地に鎮座しています。境内には、全国的に見ても珍しい龍に耳がある耳神様「龍耳社」や、馬具や刀槍の展示されている資料館があります。展示されているものはかつて戦に使われていたものですが、平成の時代になってからは祭礼に使われるようになりました。かつて神明社の周辺には山林や田畑が広がっていたのですが、1962(S37)年に土地区画整理組合が発足して、周囲の風景は一変し「面影も無い」と由緒書きに書かれています。境内には土地区画整理の完成記念碑も建てられています。氏神さまに記念碑を建てるのはよくあることですが、ここの記念碑にはその区画された地図が彫られているのが特徴的です。

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▲耳のある龍を祀る龍耳社。もちろん耳の神様。
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▲碧南の弁天池で生け捕りされた耳のある蛇がご神体であることを示す絵。
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▲丁寧に地図が彫られている、土地区画整理組合の完成記念石碑。

 さて、いよいよ猪探しです。猪子石という地名のとおり、このあたりには猪の形をした石があるのだそうです。しかも2つ。ところがその2つの石の性格は正反対であり、片方は撫でるとご利益があり、もう片方は撫でると祟りがあるとのこと。これは気をつけなくてはいけません。まずはひとつめの猪子石を探しに、神明社から西へと歩きます。250メートルほど歩くと、住宅街にポツンと小さな祠がある一角があります。名古屋銀行の一本南の道沿いです。猪子石神社です。

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▲住宅街のなかにポツンとある猪子石神社。

 猪子石神社には半分埋もれた格好の大きな石があります。この石の姿が猪に似ているということで、かつては名所となり、農村では旧暦の10月亥の日に「亥の子」を祝う信仰と結びついて猪子石が地名になったと伝えられています。猪子石神社の猪子石は「牡石」で、触る祟りがあると言われています。表面はツルツルしていて思わず撫でたくなってしまいます。勇気のある方はぜひお試しください。

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▲猪子石神社の境内には、何やら石が置かれています。
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▲こちらが猪子石(牡石)。触ると祟られます。

 もうひとつの猪子石を見に行きましょう。先ほどが牡石でしたが、今度は牝石です。今度は正反対で、撫でるとご利益のある猪子石です。猪子石神社から真南に300メートル。猪子石公園のなかにある大石神社にその石はあります。牝の猪子石は牡石とは全く見た目が異なります。小さな岩がたくさん付着していてゴツゴツしています。どちらかというと、こちらの石の方が触ってはいけない印象を受けるのですが、逆です。岩に小さな岩がたくさん付着していることから「子持石」という別名を持っており、安産の神様として古くから信仰を集めてきました。撫でると安産に恵まれると言われています。ふたつの猪子石。絶対にお間違いの無いようにご利益にあやかってください。

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▲猪子石公園の一角にある大石神社。
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▲こちらは猪子石の牝石。小さな岩がたくさん付いていて、別名子持岩。
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▲境内にはお地蔵さんがたくさん。

 このように、一見新興住宅地に見える名東区にも、様々な伝説や歴史、そして山里や田畑など昔の面影があちこちに散りばめられています。名東区が住宅地として人気なのは、ただ都心に程近い住宅地というだけではなく、住む土地に歴史や緑が欲しいという希望も叶うからではないでしょうか。名東区の宅地はもう飽和状態ですので今後住宅が増える見込みはありませんが、毎年1割の人口が転勤で入れ替わりますので、都心に近くでありながら静かで便利な住宅地に住むチャンスはありそうです。ただ、家賃や地価が今後下がることは無いでしょう。

 ではいよいよ残るひとつの区、守山区へ。

>>守山区へ続く

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