おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 第4章 名古屋の文化・風習

嫁入り道具にお金をかける本当の理由

記事公開日:2004年8月28日

おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 第38回

イラスト

 名古屋の結婚シリーズ第3弾。いよいよ嫁入り道具の荷送りです。名古屋ではごく自然に紅白幕を掲げたトラックを見かけることがあります。これは嫁入り道具を運んでいるトラックです。紅白幕を掲げているのは嫁入り道具を運んでいることを知らしめるためです。なぜ知らしめなければならないのか、それは「このトラックはバックすることができないぞ」と主張するためです。

 嫁入り道具を運ぶトラックがバックすることは出戻り、つまり離婚を想像させるので縁起が悪いとされているからです。運転マナーが悪い名古屋でも、道幅の狭い道路で紅白幕のトラックを見かけたら、皆バックさせないようによけなければならないのです。もしどうしてもよけない路上駐車の車などがあったらどうするか、その場合は祝儀を渡してでもどいてもらいます。決してバックはしないのです。

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前進あるのみ

 そのトラックですが、よく「名古屋は嫁入り道具をガラス張りのトラックで運ぶんでしょ?」と言われますがそれは稀な例です。私は実際にガラス張りのトラックが家具を運んでいる姿を目にしたことはありません。しかし、もちろん家具屋さんには「寿」のマークと鶴・亀や、松竹梅の絵が入ったスケルトンのトラックが用意されているところも多くあり、希望者はいるようです。

 でもスケルトントラックはあまり必要ありません。なぜなら出発する前にお披露目会があるからです。

 名古屋では家具屋さんで嫁入り道具を買うと、そのまま新郎の家もしくは新居に荷送りするのではなく、一度全てを新婦の実家に搬入します。そこで近所の人々を集めて嫁入り道具を一つ一つ披露するのです。もちろん家具だけではありません。電化製品から食器、さらにはその家具の中に入れる着物。挙句の果てにはリボンのついた新車まで全てを披露するのです。

 これは「私は娘にこれだけのお金をかけましたよ。」「私の娘にはそれだけの価値があるんですよ。」とアピールするためだけの儀式です。名古屋っ子の自慢気質の最たるものと言えます。ですから家具も引き出しを全て少しずつずらして開けておきます。全てを見てもらいたいのです。

嫁入り道具をレンタル?

 ところがこれが自慢を通り越して見栄になってしまい、このお披露目会のためだけにレンタルで家具や調度品を借りるという人が表れます。そしてそのためだけに存在するレンタル業者までもが登場。場合によってはお披露目会で披露したものは全てレンタルで、実際の嫁入り道具は全く別のものが送られているなんてこともあります。そういう家にはそこまでして近所に見栄を張らなければならない事情があるのでしょう。名士を演じるのも大変です。

トラックは連なって出発する…

 そしてトラックは何台も連なって新郎の家へと出発します。もちろん見栄を張った人の偽嫁入り道具はレンタル業者へと戻り、明日はまた違う新婦の家へと運ばれることでしょう。でもそういった見栄の張り方はまだいいのです。ところが、ここで本物の嫁入り道具に見栄を張ってしまった場合、つまり無理をして立派な嫁入り道具を持たせてしまうと大変なことになります。

 名古屋では新婦の嫁入り道具を見て、新郎側はその家の家柄を判断します。ですからその後もずっと見栄を張り続けなければ成らないのです。それは娘が孫を産み、その孫が初節句を迎えるときから始まります。初節句から成人式まで、孫のイベントは全て嫁の実家がお金を出すことが名古屋では慣習になっています。

 「嫁入り道具が立派だった割には...。」と言われないようにお金をかけ続けなければ成りません。ですからそこまで考えて嫁入り道具の格を決めないといけないのです。

大ばら撒き大会

 嫁入り道具が送られると、今度は娘が花嫁衣裳を身にまとい実家を出発します。ここで行われるのが「菓子撒き」です。新婦の親戚一同が実家の屋根に上がり、集まった近所の人達にお菓子を撒くのです。かつては飴玉や餅などをバラバラ撒いていたのですが、最近は駄菓子を詰め合わせたパックを撒くことが多いようです。

 バラバラ撒いていた頃はエプロンを広げてお菓子を集めたり、落ちたお菓子を拾おうとして頭をぶつけ合ったりと壮絶なバトルが繰り広げられました。時に本当のお金持ちはお菓子に混ぜで現金をばら撒くこともあり、そうなるともう嫁の実家は大興奮の渦に包まれました。

 最近ではお菓子のパックを近所に配り菓子撒きを簡略化することも多く、街でお菓子を撒いている姿を見かけることは少なくなりました。この菓子撒きは新婦が新郎の家に到着したときにも行われることがあります。

 菓子撒きは少なくなったとは言え菓子配りは相変わらず多く、そのため名古屋の菓子問屋街「明道町」をはじめ近所のお菓子屋さんには「嫁入り菓子承ります」という文字をよく見かけます。お菓子の詰め合わせパックが1つ1,000円だとしても、それを撒くほどに買ってくれるわけですからお菓子屋さんにとって新婦の実家は上得意なのです。

とにかく嫁入り道具にお金をかける

 名古屋の結婚事情、特殊なのは実はここまでです。実際の結婚式はそれほど派手なわけではありません。違いがあるとすれば前回書きましたとおり、引き出物には重くて大きいものを用意するといったところでしょうか。つまり名古屋は結婚にお金をかけるというのは、嫁入り道具にお金をかけるということなのです。

 ですから、名古屋でも息子しかいない家はそれ程結婚のためにお金を貯める必要はありません。逆に娘ばかりの家は大変です。以前、テレビで3人娘を抱える父親がインタビューに答えていたのですが、その人は社長ということもあり結婚にはお金をかけるつもりだそうで、嫁入り道具のための貯蓄額が3000万円とのこと。1人1000万円の予定ということです。

菓子撒き
▲菓子撒き用のお菓子を売る店も、最近ではあらかじめパックに。

豪華な嫁入り道具の本当の意味

 名古屋っ子はとにかくケチです。普段の生活では夜もお酒を飲みに行かず早く家に帰り、無料で何かがもらえると聞けば何度も足を運び、買物ではとことん値切ります。なぜそんな名古屋っ子が嫁入り道具にだけはそれほどお金をかけるのでしょう。実はこの嫁入り道具こそがケチの代表格なのです。お金をかけるのにケチ。「?」と思われることでしょう。

 実はこの豪華な嫁入り道具は財産分与を兼ねているのです。通常、親が娘に1000万円を手渡せば贈与税がかかります。その額は231万円にもなります。(H16.4現在、相続時精算課税を選択しなかった場合)

 しかし贈与税が課税されない項目に「個人から受ける祝物又は見舞などのための金品で、社会通念上相当と認められるもの」というものがあり、一般的に嫁入り道具に関しては贈与税がかかりません。つまり丸々1000万円分の財産を家財道具として娘に手渡す、究極の節税なのです。

本当にそこまでやるの?

 私はかつて金融機関に勤めていたことがあり、そこでこの名古屋っ子のケチさ加減に驚かされたことがあります。仕事柄、他人の土地登記簿をたくさん見たのですが、土地を複数の人で所有していることが多いのです。世帯主がその家の土地全てを所有しているのが普通ですが、例えば世帯主が64/100、長男が12/100、次男が12/100、長女が12/100いった具合になっていることがよくあるのです。

 しかも毎年その割合が変わっていて、毎年毎年少しずつ親から子へ土地を切り分けて与えているのです。どうしてそんなことをしているのかと私は疑問に思い、当時の上司に聞いてみました。

 すると、これもやはり相続税・贈与税対策だったのです。贈与税には非課税枠があります。現在は110万円です(H16.4)。年間110万円までなら税金を支払うことなく親から子へ贈与することができるわけです。ですから、その土地の評価額のうちこの非課税分だけを毎年子どもへと切り分けて贈与しているというのです。

 数十年後、この土地は贈与税も相続税も全く支払うことなく親から子へと手渡されるわけです。この手段は、土地の価格が上がり続けている状況下でないとあまり意味はありませんが...。

 名古屋っ子のケチさ加減がおわかりいただけたと思います。菓子撒きや嫁入り道具のお披露目に見られるように、確かに結婚を派手に自慢したいという気持ちがあるのも事実ですが、名古屋っ子の派手な嫁入り道具の裏には、ケチという本質が隠されているのです。子を思う親心が故の節税手段の一つなのです。

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▲「たわけ」の語源は、この「田分け」と「戯け」のふたつあります。

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