おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 第14回
名古屋へやって来た他の地方の方が驚くものの中に「味噌カツ」があります。大抵の地域ではとんかつにはソースをかけることと思います。そしてカラシを添えてキャベツと食べる...。確かに美味しいですし、私も家ではそうしています。名古屋と言えども、全国区チェーンのとんかつ専門店などではソースで食べることができます。
味噌カツというメニューの無い店がある
味噌カツとは、その名のとおりとんかつに砂糖を加えた赤味噌をかけたものです。赤味噌はもともと白味噌よりも甘いのですが、この味噌カツ用ソースは赤味噌に砂糖を加え火に掛けながら煮詰めます。焦げないように気をつけながら砂糖が溶けきって混ざれば完成です。
私は味噌カツも食べますが、ソースのとんかつとは全く別の食べ物と考えています。最近は味噌カツもある程度知名度がでてきたために、名古屋以外の方でもそういうものがあるということはご存知の方が多くなっていると思います。
どちらにするか聞かれないことがある
さて、名古屋へやって来た人が何に驚くかと言いますと、それを聞かないという点です。どういうことかと言うと、名古屋を地盤とする居酒屋やとんかつ専門店では多くの店が味噌カツをデフォルトにしているのです。
つまり、何も言わずに「とんかつ」「メンチカツ」を注文すると無条件に赤味噌がかけられているのです。ソースをかけたい場合はあらかじめそう言っておかなければなりません。私は、転勤で名古屋にやってきた上司、出張で名古屋にやってきた同僚、そして学生時代、名古屋に進学してきた地方出身者達が驚く姿を何度も見てきました。
つまり味噌カツは名古屋名物のメニューなのではなく、名古屋ではそれが当たり前で、とんかつは「ソースをかけて食べることもある」ものなのです。
▲こちらはチェーン店「とんかつ知多家」の味噌カツ。甘さが強めです。
ファミレスも名古屋だけは別メニュー
変わって、今から8年ほど前「味噌煮込みうどん始めました」という貼り紙を見て驚いたことがあります。なぜ驚いたのかといいますと、そこがデニーズだったからです。デニーズと言っても地域によってはピンと来ない方もいらっしゃると思いますが、東京に本社を置くイトーヨーカドー系のファミリーレストランです。
当時、出店は福島県から三重県までの太平洋側のみのエリアでした。(現在は加えて大阪府・兵庫県にも進出)現在は和食にも力を入れるようになりましたが、当時は尚更洋食のイメージが強いレストランでした。
特にフルーツメニューに力を入れており、名古屋っ子からすれば「東京」や「異国」を感じるレストランです。そこにいきなり現れた「味噌煮込みはじめました」という文字には正直目を疑いました。
記憶が少し曖昧なのですが、確かメニューには載っておらずひょっとしたら実験で売り出しただけなのかもしれません。デニーズの市場は関東と東海。名古屋にも営業所を置き、東京とは別メニューを出すことで売上のアップを狙っていたのかもしれません。
デニーズで食べたみそ煮込みうどん
私は興味本位から注文しましたが、味がどうこう言う前に周囲がフォークとナイフでハンバーグやステーキ食べていたりパフェをすくっているなか、味噌煮込みを食べるという雰囲気がどうもいただけませんでした。そのせいか、やはり売上はイマイチだったのかすぐに姿を消してしまいました。でも、そのために土鍋を用意したはずです。意外に当初は結構本気だったのかも知れません。
このように他地域から名古屋へ出店するレストランチェーンは、その独特なメニュー、味覚を持つ名古屋っ子に合わせなければならないという使命があります。
ひつまむしって何?
大阪を本拠とし、茨城から岡山まで出店しているサト・レストランシステムズでも味噌煮込みを扱っています。今はどうかわかりませんが、かつて大阪で立ち寄った時に「赤だしはじめました」という張り紙を見て、名古屋の味が逆輸入されていることにも驚きました。最近では「ひつまむし」を売り出すなど、大阪のレストランにもかかわらず積極的に名古屋の味を広げている点に好感が持てます。
「あれ?『ひつまぶし』じゃないの?」
と思ったあなたは相当名古屋通です。「ひつまぶし」とは、鰻の蒲焼を短冊状に切りご飯を入れたおひつにまぶしたものです。また別の回でお話しますが、ひつまぶしと言えば名古屋の「あつた蓬莱軒」が名古屋弁を使いこなす名物女将とともに有名です。
実はこの「ひつまぶし」は、蓬莱軒の登録商標なのです。ですから、さとは「ひつまぶし」と似た名前の「ひつまむし」にしているのです。ちなみに石昆という会社のお土産用「ひつまぶし」は「ひまつぶし」と言います。苦肉の策ですね...。
▲あつた蓬莱軒の正真正銘ひつまぶしです。3つの味を楽しめます。
山本屋VS山本屋
さてさて、前回は味噌煮込みうどんの作り方のお話をしましたが、外食での味噌煮込みを見てみましょう。名古屋で味噌煮込みといえば「山本屋」が有名ですが、「山本屋総本家」と「山本屋本店」があります。
しかも、結構近くに両方のお店が出店していたりします。私がアルバイトをしていたのは「山本屋総本家」です。味も作法もメニューも全く違うのにこの名前はとても紛らわしいです。どちらかがどちらかを訴えたりしないものか、と思ったのですが、聞くと「山本屋」という名前は一般的過ぎて、商標登録できないために争えないそうです。聞いた話では創業時に少し関係があったそうですが、現在は全くの別物です。
両方ともフランチャイズ制を採っている店と直営店とあるので、メニューは統一されていませんが特徴を見てみましょう。
山本屋総本家の特徴は…
「山本屋総本家」は、味噌煮込みも扱っているうどん屋さんです。つまり、普通のうどんや蕎麦も扱っている店が多く、仲間と行く時に誰かが「俺は味噌煮込みダメだなぁ~」と言っても、天ぷらうどんやカツ丼、お子様うどんまであるので大丈夫です。ダシは鶏ガラと日高昆布、さらに鰹も加えます。
椎茸の風味も効いていて味は少し辛め。その分キリっとした味になっていて、お酒を飲みながらつまみとして味噌煮込みを食べる人もいます。すり鉢に味噌煮込みのつゆと大量の揚げ玉を入れた「みそきし」も隠れた人気メニュー。価格も店によって若干違いがありますが、味噌煮込みは単品800円からという店舗もあり気軽に入ることができます。
一方の山本屋本店
「山本屋本店」は、味噌煮込み専門店。基本的に有無を言わせません。味噌は少し甘めでご飯によく合います。ダシはムロアジと鰹と鶏がら、そしてたまりじょうゆが入ります。
何と言っても麺が太くそれに驚く人が多いです。漬物は食べ放題。さすが味噌煮込み専門店ということでバリエーションの幅が広い。名古屋コーチン入りのほか、季節によって牡蠣、松茸、黒豚といろいろな味噌煮込みが楽しめます。錦店では「味噌煮込みフルコース」もあります。ただ、想像がつくと思いますが...かなりいいお値段です。
私は、普段食べるときは「山本屋総本家」、今日は味噌煮込みを食べるぞ!と気合が入っているときは「山本屋本店」と使いわけています。
取り皿はありません!
そして、どちらにも共通していることがあります。前回も書きましたが、まず、取り皿がついてこないこと。
そしてここからは店舗によって普通のところもありますが、七味唐辛子が数十センチの竹筒に入っていたり、箸が1センチ角の太さであるということが特徴でしょうか。それぞれ意味はあるのですが最初は驚きます。ちなみに意味とは、唐辛子は詰め替えが面倒くさくないように、太い箸は太い麺が掴みやすいようにとのことです。
▲山本屋総本家の味噌煮込みうどん。半熟卵がたまらない。
どんなものでも名古屋の味に
赤味噌の話題についてはどうしても味噌煮込みうどんに思い入れがあるので傾倒してしまいましたが、他にも牛もつを赤味噌で煮込んだ「どて煮」や「牡蠣のどて鍋」「みそおでん」といった赤味噌料理の他、おでん(関東煮)にも、田楽にも、わけぎとイカの和え物にもとにかく赤味噌をつけるのです。
他の地方で白味噌を使う料理に代わりに赤味噌を使っているのではなく、赤味噌自体が名古屋の味なのです。
▲最近では、赤味噌を使ったラーメを出す店も。(藤一番)。
極め付けが、ナカモが発売している「つけてみそかけてみそ」です。チューブ状の容器に赤味噌をベースにした味噌だれが入っているのですが、コンセプトは「どんなものでも名古屋の味に変えられる!」。味噌カツや田楽だけでなく、お好み焼きやたこ焼きにもぜひとのこと。ネットで通販されているので、あなたの家でも気軽に擬似名古屋体験ができます。
どんなものでもと言うのはちょっと語弊がある気もします。名古屋っ子だからといって、何でもかんでも味噌をつけるわけではありませんし、私個人としてはお好み焼きやたこ焼きはオタフクソースがいいなぁ。
▲ナカモは名古屋の会社です。「どんなものでも名古屋の味に」はちょっと言いすぎでは...?