みそかつ
矢場とん
<本店>矢場町<栄>三越ラシック7階<名駅>エスカ地下街<東京>東京銀座店
特徴的な名古屋メニューのなかで、特に他の地方から驚かれるメニューのひとつが「みそかつ」である。とんかつ自体は全国どこでも食べられているメニューであり、普通はとんかつにソースなどをかけ、時にはからしをトッピングする。しかし名古屋ではソースではなく、とんかつに赤味噌ベースのタレをかける、それがみそかつである。
「とんかつの赤味噌がけ」とは言わない
軽く言ってしまえば、とんかつのソースが赤味噌に変わっただけの食べ物と言えるかもしれない。たとえば天ぷらは、天つゆで食べる場合と塩で食べる場合がある。それをわざわざ「天つゆ天ぷら」「塩天ぷら」などと言ってメニューをわけるだろうか。そんなことはない。
しかしとんかつの場合は「ソースとんかつ」と「みそかつ」とで全く違うメニューかのような扱いになる。これは偏に、そのビジュアルと味が、ソースと赤味噌では全く異なるからだろうか。確かにその色は、味噌煮込みうどんと同様に名古屋っ子以外には食べ物としてなかなか受け入れにくいものがある。
和風キッチン蔵<刈谷市> 本店
味噌とは限らずたくさんのメニューがあります。
みそかつ嫌いな名古屋っ子の存在
意外なことに、このみそかつというメニューを嫌いな名古屋っ子が多く存在する。実は私もかつてはそうだった。それに私の知る範囲では、家庭でみそかつを食べるという家はそれ程多くない。なぜなら、とんかつに合う味噌ダレを作るのは意外と難しいのである。市販されている味噌ダレをとんかつにかけても、本当のみそかつにはならないのだ。
私が初めてみそかつに出会ったのは大学の食堂だった。私の母親は生粋の名古屋っ子であり、我が家の食卓には数多くの名古屋メニューが幼い頃から並んでいたのだが、なぜかとんかつだけはずっとソースだったのある。
大学の食堂で一口、みそかつを口に入れた瞬間、私は思わず吐き出しそうになってしまった。冷めたとんかつに、冷たい赤味噌のタレ。しかもそのタレには妙な甘さがあり、とても美味しいと言えるものではなかったのである。
それ以来私は、みそかつというものに恐怖心すら抱くようになってしまい、ひょっとして自分には、名古屋っ子の資格がないのではないかという、名古屋っ子としての自信までをも喪失してしまったのである。
鉄板メニューもありますがこちらはあまりみそかつという感じがしません。
中途半端なみそかつに気をつけろ!
そうなのだ。家庭でみそかつを作ろうとしてもなかなかうまくできないのである。家庭だけでなく、中途半端なお店でみそかつを食べてしまうと、そのあまりの美味しく無さに「みそかつはマズイ」というデータが頭にインプットされてしまうのである。いかにも赤味噌というタレが乗っかったみそかつには要注意である。
私が名古屋っ子としての自信を失いかけていたある日、友人にそのみそかつの悩みを打ち明けると、「お前は本当のみそかつを知らない」と一蹴されたのである。友人は私をみそかつ専門店に連れて行った。そして本物のみそかつに私は触れた。今でも忘れられない。「これが本当のみそかつなのか!」と感動したことを。そしてその感動は、私に名古屋っ子としての自信を再び呼び起こしてくれたのである。
矢場とんはこれがレギュラーサイズ
赤味噌がけではなく「みそかつ」のワケ
みそかつのルーツは、名古屋に古くからあったどで鍋に串カツを突っ込んだことによるのだそうだ。どて鍋とは、もつを赤味噌でグツグツと煮込んだものである。名古屋のみそかつ専門店では、その味に今でもこだわり続けている。
とんかつに赤味噌をかけただけでは、みそかつと呼ぶに値しないのである。私はそれ以来、みそかつが食べたくなった時には必ず専門店に足を運ぶことにした。「みそかつだけはチョット…」と思っているあなたは、本当のみそかつの味を知っているだろうか。あなたがかつて食べたみそかつには、ドロっとした赤味噌がかかってはいなかっただろうか。本物は違うのだ。
とんかつに赤味噌がかかったものと、みそかつは別物と言える。だからこそ「とんかつの赤味噌がけ」ではなく「みそかつ」という独立したメニューとなっているのであろう。
ちなみに、とんかつに味噌をかけたルーツとしては津市にある洋食店なのだが、それはあくまでも洋食のとんかつに赤味噌ベースのソースをかけたものであるため、今回のみそかつ考察とは別物とさせていただいた。
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