テレ東系なのに放送エリアが最も広い!?開局25周年の少し違うテレビ局-TVQ九州放送

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  • 最後発にもかかわらず地元ブランドを築けたTVQ(テレキュー)
  • テレビ東京系列なのに…どこよりもエリアが広い!?
  • 地元密着感を出しつつも九州全体を見据えなければならない

 前回は、業界の方と一緒に、福岡の4つのテレビ局をまわってお話をお伺いしました。県に地上波民放テレビ局が5つあるという、名古屋と福岡の放送事情は似ているようで、「地元新聞・全国紙とテレビ局のパワーバランス」「福岡都市圏と北九州都市圏のつなひき」「本来はエリアではないのにカバーしている佐賀県」という大きな3つの違いを知ることができました。

 今回は、福岡で最も新しいテレビ局であり、なおかつテレビ東京系列でも最も新しい地上波テレビ局である「TVQ九州放送」にお伺いします。このTVQ九州放送こそ「他局よりもエリアが広い」「ゴールデンタイムに複数のローカル番組」「地域最多のプロ野球中継」など、名古屋の同系列・テレビ愛知とは違う特徴を持っています。

 その背景にはどんな事情があるのでしょうか。私があまりにもテレビ東京系列好きで、系列の研究もしているということもあってか、ありがたいことにご厚意でTVQ九州放送はスタジオや収録風景も見学もさせていただけました。

北部九州の人はTVQを「ティーヴィーキュー」と読まない

 「何と読むでしょう?と『TVQ』という文字を見せられたら、全国的にはそのまま「ティーヴィーキュー」と読んでしまうことでしょう。しかし、TVQエリアの北部九州では、ほとんどの人が「テレキュー」とすんなり読めます。TVQ本社前にあるバス停も「TVQ前」と書いて「テレキュー前」と読みます。しかし社名は「TVQ九州放送」と書いて「ティーヴィーキューきゅうしゅうほうそう」。

 「テレキュー」とは一体何なのでしょうか。

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 テレビ東京系列は、全国に6局の地上波テレビ局を有しています。1981(S56)年に東京12チャンネルから社名を変更した「テレビ東京」を皮切りに、「テレビ大阪(1982開局)」「テレビ愛知(1983開局)」「テレビせとうち(1985開局)」「テレビ北海道(1989開局)」と、それまで「テレビ○○」という局名で統一した形で全国展開が進められました。

 そして1991(H3)年、福岡へと新局を開局することになります。当初の計画では「テレビ九州」とするつもりだったのですが…。既に同名の会社が存在したことから断念。開局時は「TXN九州(株式会社ティー・エックス・エヌ九州)」という社名で、愛称を「TVQ」と書いて「テレキュー」としたのです。公式には由来は明らかになっていませんが、「テレビ九州」を縮めて「テレ九(テレキュー)」ということなのでしょう。

 「TXN」とはテレビ東京系列のネットワーク「TV TOKYO(TX) Network」の略称で、その九州の拠点という意味で「TXN九州」と社名がついたのですが、当初は「TXN九州です」と名乗ると「え?一体おたくは何の会社なの?」と言われたそうです。

定着した「TVQ(テレキュー)」ブランド

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 今から25年前の1991(H3)年4月1日、福岡で最も新しいテレビ局として、テレビ東京系列(TXN)「最後の」テレビ局として開局したTVQは、愛称である「TVQ(テレキュー)」だけを表に出し、新局であり、制約があるなかで地元戦略を図ります。

 1992(H4)年末には、福岡だけでなく北九州市にも本社とスタジオを設置。福岡と北九州の二本社体制とします。北九州スタジオでは子ども番組を制作、全体では若者から年配者向け番組まで幅広いターゲットに向けた番組を制作し、その「TVQ(テレキュー)」の名を定着させていきます。現在、北九州スタジオは運用されていませんが、二本社体制を維持しているのは福岡の民放テレビ局のなかで唯一です。

 TVQが開局する少し前、1989(H元)年に福岡市の平和台球場へと本拠地を移した福岡ダイエーホークス(当時)。1993(H5)年には福岡ドーム(当時)が開設され、1994(H6)年には福岡移転後初めて優勝争いに加わり、ダイエー人気は高まっていきます。特にテレビ東京系列は火曜と土曜のゴールデンタイムを自由に編成できるため、TVQは、積極的にホークス戦を中継。

 今年度も、福岡のテレビ局の中でホークス戦を最多中継するのはTVQです。ホークスといえばTVQというイメージも、そのTVQブランドの浸透を後押しし、開局25周年となった今年は、ホークスのホーム開幕戦が「TVQ開局25周年記念中継」となるなど、球団側との信頼関係も強くなっています。

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 最後発という制約がありながら、北九州都市圏にも配慮して北九州本社を設置。地域に根ざした番組制作と、地元球団とのつながりの深さ。さらにはそのホークスが圧倒的な強さを見せていることで、TVQの地元における存在感は大きいのです。

テレビ東京系列なのに他局よりもエリアが広い

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 テレビ東京系列といいますと、人口比では全国の約7割をカバーしているとはいえ、二十数局を有する4大系列とは異なり、6局の系列局しかなくエリアが狭い系列という印象があります。また、それぞれの系列局についても狭いイメージがあります。

 テレビ東京とテレビせとうち、テレビ北海道は、同地域の他局と同様のエリアを確保しています。しかしそのテレビ北海道も全道カバーに達したのは2015(H27)12月22日と、開局から26年の月日を要してようやく他局と足並みを揃えたという状況です。

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 それら3局とは違い、そもそも当初からエリアが狭く差別化させられているのが、テレビ大阪とテレビ愛知です。大阪と名古屋のテレビ局は基本的に「広域免許」なのですが、テレビ東京系列の両局のみは「県域局免許」となっています。そのため、他の在阪局が近畿6府県をエリアとしているのに対して、テレビ大阪は大阪府だけ。他の在名局が東海3県をエリアとしているのに対して、テレビ愛知は愛知県だけなのです。

 このように、他局と同等もしくは狭い、それがテレビ東京系列各局の特徴なのですが、TVQ九州放送だけは違うのです。他のどの福岡のテレビ局よりも、エリアが広いのです。

 福岡のテレビ局はすべて「福岡県のみ」を放送対象地域としているのですが、実際のサービスエリア(営業区域)は異なります。厳密には一部地域で異なることもありますが、ざっくりと示すと以下の通りです。

福岡県 佐賀県 大分県 山口西部 長崎県
rkb RKB毎日放送 TBS系 × × ×
KBC九州朝日放送 テレ朝系 × × ×
FBS福岡放送 日テレ系 × ×
TNCテレビ西日本 フジ系 ×
TVQ九州放送 テレ東系
STSサガテレビ フジ系 × × × ×
○=営業も視聴も可 △=視聴は可だが営業は難しい ×=営業も視聴も不可

※スマホの方は横位置でご覧ください。

 大分県は、TBS系列の大分放送とテレ朝系の大分朝日放送があるために、同系列のrkbやKBCはケーブルテレビでも配信できなくなっている一方で、テレビ大分が日テレ系とフジ系の半々のクロスネットのために、FBSとTNCは配信されています。また、佐賀県にフジ系があるためにTNCは佐賀県で営業できない一方で、フジ系の無い山口県では視聴も営業も可能となっています。

 他の局が、系列内で視聴エリアと営業エリアを調整しているなか、福岡・佐賀・大分・山口西部・長崎のすべてにおいて視聴も営業も可能なのが、TVQ九州放送です。

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 テレビ東京系列は、岡山のテレビせとうちより西には、このTVQ九州放送しかありません。調整の必要がないのです。さらに、大阪や名古屋周辺のように、テレビ東京の番組を大量に購入して放送する独立局も存在しないため、エリア外におけるケーブルテレビ再送信にも積極的なのです。

 TVQ九州放送の放送対象地域は福岡県のみですので、県外のケーブルテレビ局でTVQを再送信して見られるようにするには、その県の全テレビ局とTVQ九州放送の同意が必要となります。

 大阪や名古屋周辺の県では、大量にテレビ東京の番組を「買って」放送している独立局を考慮して、テレビ東京系列の局自身が同意をしないといった例もあるのですが、TVQ九州放送は、希望のあった県外のケーブルテレビ局には、最初からすべて再送信同意をしているとのこと。各県地元のテレビ局が非同意でない限りは再送信されており、これだけ広いサービスエリアを実現しているのです。

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 そのため、TVQ九州放送の視聴可能世帯数は329万5千世帯(H24.3現在)。系列内では名古屋のテレビ愛知の424万8千世帯(同)に次ぐ数字となっています。ちなみに、KBC九州朝日放送のエリア世帯数は283万6千世帯(H25.3現在)ですので、TVQはKBCよりも約46万世帯も多く、同じ視聴率1%でも、TVQとKBCでは分母が違うことになります。

 その地域のテレビ局のなかで、テレビ東京系列の局のエリアが突出して最も広いという事例は、全国でこの福岡のTVQ九州放送だけ。大阪や愛知のようにもともと放送免許が限定されている地域から見ると、信じられない状態です。

土曜のゴールデンタイムに人気番組

 TVQ九州放送のロビーにも大きくポスターが掲げられていますが、ゴールデンタイムを含めて土曜日にはたくさんの自社制作番組があり、それぞれが長く続いている番組というのもTVQの特徴です。

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 先述のとおり、テレビ東京系列は、火曜の19時から22時と、土曜の18時30分から21時までがローカル枠となっており、各局で自由に番組を放送できます。TVQではその時間に「TVQ Super!!Stadium」としてホークス戦を中継することも多いのですが、普段から土曜は完全自社制作となっています。

 土曜午後6時30分からの「土曜の夜は!おとななテレビ(90分)」は、パパイヤ鈴木さんをメインに、大人がくつろげる地域密着情報番組。注目の話題から、ホークス情報、そしてもちろんパパイヤさんですからグルメスポットまで、毎週90分という大型枠のレギュラー番組は、TVQとしてはこの番組が初。2012(H24)年秋にスタートし、4年目。セットも豪華で奥行き感のある仕上がりに、番組自体もアットホームで楽しげな雰囲気となっています。

 さらに午後8時からは「きらり九州めぐり逢い(54分)」。一時期、BSジャパンや三重テレビなど他の地域でも放送されたことのある、地元密着のふれあい旅番組です。こちらはさらに長寿番組で、放送形態が変わった時期もありますが、2006(H18)年秋にスタート、まもなく10年を迎える、福岡土曜夜の定番です。

情報、女性、経済、バラエティと幅広い

 また、土曜午後2時30分の「ぐっ!ジョブ~九州ゲンキ主義経済~(30分)」は、日経系のテレ東系らしい、九州のゲンキな企業を毎週取りあげる番組ですが、とてもライトなバラエティ感覚の番組に仕上がっており、かつ、内容はしっかりと掘り下げたビジネスヒント満載の構成となっているので、経営者から消費者まで、誰が見ても楽しめて知識になる番組の作りは引き込まれます。

 「ぐっ!ジョブ」は、GYAOストアでの配信や日経CNBC、さらに歌謡ポップスチャンネル(無料)でも放送されており、全国で視聴することができます。こちらはかつて「九州けいざいNOW!」というタイトルだった時代を含めると、2000(H12)年秋に始まっているので、なんと16年目です。

 このように、TVQはローカル番組を地道に長く続ける傾向もあり、次々と新企画・新番組を投入して注目を集める、名古屋の同系列局の手法とは特に対照的に感じます。

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 他にも土曜は午前に女子力アップを目指す「キレ★カワ女子部(30分)」、深夜にはバラエティ「チラチラパンチ(30分)」と、TVQの土曜には自社制作番組がこれでもかと並びます。日曜お昼にも、天神発情報バラエティ「天神日曜ビ!(25分)」、金曜深夜にはネットで話題の芸人おほしんたろうさんによる冠番組「おっほ~ゴッホみたいに言うな!!~(30分)」、そして「ホークス+(6分)」「Beyond輝きウーマン(6分)」「未来の主役~地球の子どもたち(6分/全国ネット)」などミニ番組も多数あります。

 ニュース番組は「ルックアップふくおか(月~木12分/金17分)」があり、日本経済新聞社と西日本新聞社の協力となっています。福岡・佐賀地区では、西日本新聞協力のニュースはTNCテレビ西日本、サガテレビに次いで3局目。東海地区では、CBCテレビ、東海テレビ、三重テレビ、テレビ愛知の4局が中日新聞系で、テレビ愛知も週末のニュースに限って日本経済新聞社と中日新聞社の協力ですから、TVQとテレビ愛知のこのあたりの立ち位置は似ていますね。

 かつては、地域密着子ども番組「ばりすご★ボイガー7(2001-2009)」を8年に渡って放送、スペースワールドを舞台にしたこちらもキッズ番組「あそぼうラッキー(~あそラキプラス)(1998-2007)」を9年間放送するなど、制作番組のジャンルの幅の広さもまた、目を見張るものがあります。

独立局が無いという大きな違い

 大阪や名古屋の系列局との違いは、エリアの広さだけではありません。周囲に独立局が無いことも大きな違いです。これは、テレビ北海道やテレビせとうちも同様です。

 独立局が周囲に無いために、東名阪では独立局が担っている役割もTVQは果たしています。まずは深夜アニメ。深夜アニメは製作委員会がテレビ局の枠を買い取って放送する「持込番組」という形態になっており、東京ではTOKYO MX、大阪ではサンテレビ、名古屋では三重テレビに持ち込まれるアニメでも、福岡の場合は最も持ち込みやすいのがTVQ。放送枠が埋まると同時に料金も発生する持込番組は、局としても収益源のひとつとなっています。

 ただ一方で、あくまでもテレビ東京系列であるため、独立局ほどに柔軟な対応ができるわけではなく、収益と編成のバランスをとるのが難しい部分もあるようです。

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九州全体を見据えたテレビ局として

 TVQのキャラクターは「モニ太」。2005(H17)年春に登場し、かつてテレビ東京の「モヤモヤさまぁ~ず2」で、さまぁ~ずの2人がTVQに訪れた際には、散々な目に遭ったことでもおなじみですね。

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 他の系列とは違い、テレビ東京系列は九州にはTVQしかありません。先日の熊本地震でも、福岡のTVQが取材を続けていますし、また「ぐっ!ジョブ」でも九州全体の企業を取りあげる傾向もあり、福岡のテレビ局でありながら、映らない地域も含めて、九州全体を見据えなければならないという宿命を負っています。

 TVQは今年、開局25周年を迎えましたが、記念特別番組「明治日本の産業革命世界遺産へ(2015.6)」では福岡と長崎を、「滝川クリステルがせまる長崎教会群秘められた真実(2015.12)」でも長崎を取りあげ、テレビ東京系列全国ネットで九州の文化を発信しています。

 一方で、「新時代ライフスタイルのすすめ コレカラ・ジャパン(2016.3)」では、アジアの中心都市としての福岡。住みやすく暮らしやすく仕事のしやすい、そして、開かれたクリエイティビティあふれる都市としての福岡を描き、全国に発信するなど、地域密着と地域を全国に発信する役割の両方をこなしています。

 ただ、売上規模を見ますと83億円と、テレビ愛知の103億円に比べてもまだ小さく、逆に、その規模でのそれだけの番組制作活動は大変な部分もあるかと思います。

 お話を伺って、番組制作の現場も見させていただいて思ったことですが、その状況下でもこれだけのことを、長期スパンで実現できているのは、テレビ東京系列の特性と、福岡という街の特性が、うまく相乗効果となって形になっているのではないかということ。

 売上の推移を見ますと、2010年3月期が71億円、そこから73億、76億、80億、81億、そして83億と、このテレビ離れが叫ばれる時代のなかで、着実に右肩上がりで業績を伸ばしているのも、そういった番組制作が地元で、東京で評価されているからなのでしょう。

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 開局25周年のキャッチフレーズは「少し違うがクセになる」。最初このフレーズを聞いた際には、「ああ、テレビ東京系列自体が他と違うからね」と思ったのですが、実はTVQは、テレビ東京系列のなかでも他と少し違うのではないか、とも思えてきました。

 私は愛知在住ですので、衛星配信やネット配信のあるいくつかの番組しか見られませんが、最も新しいテレ東系の局として、最も開放的なテレ東系の局として、そして、九州・福岡の文化・情報発信基地としてのTVQに注目したいですし、テレ東系なのにエリアが広くて、独立U局の要素もあって、自社製作番組も多いというのは、実に興味深いです。

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