- 5つの民放テレビ局がひとつの県にある地域同士で特性を比較
- 微妙に違う日テレ系・全く違うテレ朝系・老舗TBS系の共通点と相違点
- フジ系は同じ地元新聞社系なのに?「福岡の地元感」と「佐賀県の存在」
わが国で、ひとつの都道府県に5つ以上の民放テレビ局がある地域は、わずか5都道府県にとどまります。北海道、東京都、愛知県、大阪府、福岡県です。
このうち、東京はキー局、大阪は準キー局であり、他と比べることは出来ない特異な存在であると考えると、地域におけるメディア特性を、5つの局がある地域同士で比較するとなれば、北海道、愛知県、福岡県で比べるしかありません。
名古屋の5つの民放テレビ局の特性と、福岡の5つの民放テレビ局の特性については、前々から比較してみたいと思っていたところで、業界の方と一緒にそれらを見てまわる機会を得ることができましたので、レポートします。
最も違っていた点は、福岡市の「地元意識」と地元新聞の影響、そして佐賀県の存在です。
《資料》2015年3月期 売上
まずはこちらの資料をご覧ください。
<名古屋・東海3県> | |||
CTV・中京テレビ | 日テレ系 | 335億 | |
CBC・中部日本放送 | TBS系 | 322億 | ※ラジオ含む |
THK・東海テレビ放送 | フジ系 | 309億 | |
メ~テレ・名古屋テレビ | テレ朝系 | 247億 | |
TVA・テレビ愛知 | テレ東系 | 103億 | |
MTV・三重テレビ放送 | 独立局 | 38億 | |
ぎふチャン・岐阜放送 | 独立局 | 22億 | ※ラジオ含む※9月決算 |
ラジオ:東海 25億、@FM 15億、ZIP-FM 19億 | |||
<福岡・北部九州> | |||
rkb・RKB毎日放送 | TBS系 | 194億 | ※ラジオ含む |
KBC・九州朝日放送 | テレ朝系 | 184億 | ※ラジオ含む |
FBS・福岡放送 | 日テレ系 | 157億 | |
TNC・テレビ西日本 | フジ系 | 142億 | |
TVQ・TVQ九州放送 | テレ東系 | 83億 | |
STS・サガテレビ | フジ系 | 41億 | |
ラジオ:FM福岡 18億、CROSS 5億、LOVE 9億 |
※名古屋のテレビ局は以下を除いて愛知・三重・岐阜の3県が放送エリア
※テレビ愛知、三重テレビ、岐阜放送は各県のみが放送エリア
※福岡のテレビ局の放送エリアは福岡県のみだが事実上佐賀県もカバーしている
※サガテレビは佐賀県のみが放送エリア
福岡放送(FBS)-日本テレビ系列がトップではない
まず訪れたのは福岡放送(FBS)。日本テレビの好調を受けて、各地で日テレ系の局は視聴率も業績も好調。名古屋の中京テレビも2015年度視聴率3冠を達成していますし、売上も在名局のなかでトップです。しかし、福岡は様子がやや違うとのこと。
日テレ系といえば老舗テレビ局が該当する地方が多い一方で、名古屋も福岡も、日テレ系は「旧UHF局」で後発であるのには理由があります。
名古屋は日テレ系だったメ~テレ(名古屋テレビ)に切られる形で、日テレ系が新局の中京テレビに回ってきたという経緯がありますし、福岡もFBSが開局するまでの5年間は、日テレ系が存在しない空白区でした。名古屋と福岡はかつて、日テレ系冷遇地域だったという共通点があります。
なぜそうなったのかを探ると、日本テレビといえば読売新聞。日本テレビが開局した当時、読売新聞は名古屋・中日新聞、福岡・西日本新聞ともに協力関係にあり、テレビ放送の創成期は名古屋でも福岡でも、地元新聞系テレビ局と日テレの関係は良好で、番組は重宝されたのですが…。
読売新聞はテレビ・メディア戦略を進めていく過程で、自ら福岡や名古屋へ進出しようと動きます。そうなると、中日新聞や西日本新聞にとっては、提携相手からライバル関係に。その関係の変質から、名古屋と福岡の老舗テレビ局から日テレ系は排除されることになったのです。
そのため、名古屋も福岡も日テレ系は「UHF新局」と後塵を拝する立ち位置になり、開設された昭和40年代当時のUHFは、現在のBSのように、専用アンテナ普及に力を入れなければ、見てすらもらえないという状況でした。
それから時は大きく流れアンテナも普及、地デジ化によって2011(H23)年、すべてのテレビ局がUHFとなったことで旧VHF局も旧UHF局もようやく条件も同じになり、名古屋でも福岡でも日テレ系は大きく業績を伸ばします。中京テレビは視聴率も売上もトップ。ところがFBSは…。
rkbとKBCがラジオの売上を含んでいるため、単純比較はできないものの、ラジオの売上が20億程度と考えると、それを引いたとしてもやはり上位2局にFBSは追いつけていませんし、中京はラジオを合算したCBC・東海と比較しても上回っています。
かつてUHFで、マイナーな存在であり続けた、中京テレビとFBS。なぜFBSはそれを引きずっているのか…。福岡の見方だとむしろ逆で、中京テレビがなぜそこまでメジャーでトップに立てているのかが不思議だそうです。ただ、日テレ系が好調なのは中京に限ったことではなく、全国的なものです。
とはいえ、FBSも業績は伸び続けているので、日テレ好調が続けば充分に、rkbとKBCも射程圏内なのではないかというお話でした。あと、FBSは2005(H17)年に現在地に新社屋を建てたものの立地が若干マイナーな場所で、そのイメージも影響しているかも…、さらには、 1997(H9)年にあった「CM間引き問題」の印象がいまだにあるスポンサーもいるのでは…?とのお話もありましたが、あくまでもいずれも個人的な見解であるとのこと。
立地のイメージと言いますと、FBSの若干マイナーどころか、名古屋の中京テレビなんて他の局がすべて都心にあるなかで唯一、郊外の丘の上でしたからね…。
そういう意味でも、中京テレビとFBSは似ていますが、中京テレビはこの秋に名古屋駅近くの新社屋へ移転。さらにイメージがアップしますから、FBSが中京テレビの背中を追い続ける構図はしばらく変わらないかもしれません。
九州朝日放送(KBC)-圧倒的地元感のテレ朝系
続いてやってきましたのは、現在は既に送信アンテナとしては使用されていない、赤白のタワーが残る九州朝日放送(KBC)です。かつて福岡は1993(H5)年6月13日まで、VHFテレビの放送電波はそれぞれのテレビ局の社屋から発射されており、場所によっては最悪、「NHK・KBC・RKB・TNC・UHF」と、5本のアンテナを建てないとテレビが綺麗に見られなかったというのですから驚きです。
KBCはラジオ兼営局です。ラジオもやっているテレビ局といいますと、全国的にはTBS系と日テレ系がほとんどです。これは、TBS系や日テレ系が老舗テレビ局であることが多く、ラジオ局スタートだったからに起因するわけです。
テレ朝系でラジオを兼営しているのは、このKBCと大阪のABCのみ。珍しい存在といえます。逆に、名古屋の場合は兼営ではありませんが、フジ系の東海テレビが東海ラジオによって作られたテレビ局ですので、その点では名古屋も珍しいといえます。
KBCは1チャンネル。これはアナログテレビ放送の頃からの名残です。ただ、佐賀県では1チャンネルがNHKになるため、ほとんどのケースでKBCは6チャンネルとなっており、事実上「KBCテレビ 福岡1ch・佐賀6ch」に。放送局ごとにチャンネル(正確にはリモコンポジション)が統一された地デジでは、全国でここだけと言ってもいいでしょう。地デジなのに地域によってチャンネルが違うという事態が発生しています。
KBCが誇るのは圧倒的な地元感です。6:00~8:00「アサデス。KBC」、9:55~10:45「アサデス。九州山口」、18:15~25「スーパーJチャンネル九州・沖縄」、18:25~19:00「KBCニュースピア」、24:15~25:10「ドォーモ」と、朝から深夜までローカル番組がずっと放送されているのです。
さらに、「アサデス。九州山口」は7局ネット、「スーパーJチャンネル九州・沖縄」は6局ネット、「ドォーモ」も5局ネットと、NHKの基幹局かのように毎日、ブロックネットで広い地域にこれだけの番組を放送している民放テレビ局は、日本で他に例がありません。
視聴率的にも、名古屋の中京テレビをはじめ全国各地で日テレ系全盛のこのご時世に、KBCは2014・15年と連続で年間視聴率3冠(ゴールデン・プライム・プライム2)。「アサデス。KBC」のパート2(6:45~8:00)は、なんと2015年の年間平均視聴率が12.0%と、ローカル朝ワイドでこの視聴率は、まさにオバケ番組と言えます。
加えて、福岡都市圏の人に言わせますと、純粋な福岡側の血だけが入った歴史あるテレビ局はKBCだけ、という親しみがあるそうです。
福岡のVHF古参3テレビ局のうち、rkbは「ラジオ九州」として福岡市でスタートしているものの、テレビは八幡地区で予備免許を交付された「西部毎日テレビジョン放送」との混血であるということ、そしてTNCテレビ西日本は八幡発祥で、1974(S49)年までは八幡を本局としており、「TNCは北九州のテレビ」という印象があるというのです。
当初は久留米市を発祥としているKBCですが、それでも久留米は福岡側であり、小倉・八幡つまり現在の北九州は「別物」という意識が福岡側にはある…。こういう話は、現地の方に伺わないとわからない感覚ですね。勉強になりました。そういえばNHKも、福岡県は福岡放送局と北九州放送局と、県内に複数の放送局がある体制が北海道を除いて日本で唯一、未だに続いていますものね。
テレビ朝日系列で、ラジオがあって、地元に一番密着していて、制作番組も圧倒的なKBC。ふと、名古屋のテレビ朝日系列を思い浮かべますと、かつては日テレ系で、資本は外様、スポンサーも外様、視聴率で3冠王になった時でも、売上が他局に比べて7~8割と頭打ち…。
名古屋と福岡でかなり印象が違うのが、このテレビ朝日系列ですね。
テレビ西日本(TNC)-地元新聞系だから超地元密着感があるかと思いきや
続いてはももち浜へ。ここには、1993(H5)年6月14日より集約された電波塔「福岡タワー」があります。なんと、向かってその右側にTNCテレビ西日本、左側にRKB毎日放送と、2つのテレビ局が向かい合っているという不思議な光景です。
ニュース番組のオープニングに、自社の社屋を空撮で使うことはよくありますよね。空撮映像では、名古屋の新栄・CBCと東新町・東海テレビでも、互いに映らないようにした努力のあとが見られましたが、この向かい合っているTNCとrkbはさらに衝撃ですね。かつて「TNCニュース」では、意地でもrkbが映りこまない様に頑張りに頑張った痕跡のある映像が見られたとのことです。
福岡タワー周辺は観光地化されており、TNCは本社とショッピングセンターが併設されていて、さらにはショッピングセンターのなかに自社のグッズショップがあるなど、ものすごく開放的です。
フジ系列ということで華々しさもあり、さらにテレビ西日本という名の通り、地元・西日本新聞のテレビ局ということで、さぞかし福岡では親しまれていて根付いているテレビ局かと思いきや、福岡市では様子が違うというのです。
名古屋の場合、CBC・東海・テレビ愛知・三重と、4社が中日新聞系列であり、どの局も地元密着感に溢れており、中日新聞との連携でしっかりと根付いている印象があります。
なので、TNCも東海と同様かと思ったのですが、そうです。先述の「八幡本社」時代の印象が尾を引いているのです。TNCは1958(S33)年に八幡市(当時)に開局、2年後には同じく八幡市内に本社放送開館を建設します。福岡放送局が設置されるのは1962(S37)年。そう、福岡市の人にとっては「八幡のテレビ局が福岡にも進出してきた」。それがTNCなのです。
福岡市にTNCの放送会館が完成するのは1966(S41)年。その8年後の1974(S49)に本社を福岡市に移し、ようやく親局が福岡局になります。
それから40年近くの時間が経過しています。40年という時をもってしても、「TNCは北九州でしょ」という印象が、特にスポンサーに対して払拭できていないという話は、とても興味深かったです。他のテレビ局が北九州支社、北九州本社を維持しているなか、現在、TNCの北九州拠点は唯一「支局」に降格になっているにもかかわらずです。
さらに、西日本新聞についても福岡都市圏での世帯普及率は4割弱と、中日新聞の名古屋市での5割弱に比べると低く、転勤者率が高いことなどもあり、名古屋よりも地元新聞社の影響がやや低いのも特徴といえるでしょう。
そもそも、名古屋は5局中3局(CBC・THK・TVA)が中日系で、1局(CTV)は非新聞財界系、残る1局(メ~テレ)に全国紙が相乗りであるのに対して、福岡は5局中2局(TNC・TVQ)が西日本新聞系、あとは3局それぞれ朝日(KBC)、毎日(rkb)、読売(FBS)と分かれているわけで、地元新聞がどうというよりも、全国紙の存在感が圧倒的に違うことがわかります。
もうひとつ、TNCだけの要因としてあるのが「佐賀県で営業ができない」ことです。実際にはエリアではないのですが、佐賀県はほとんどの地域で福岡のテレビが見られていますが、しかし、佐賀県には1つだけテレビ局があります。フジテレビ系列のサガテレビです。従って同じ系列のTNCは、佐賀県でも見られるにも関わらず、福岡のテレビ局のなかで唯一、佐賀県での営業が大っぴらにできないのです。
確かに、TNCとサガテレビの売上を合算すると、KBCと同程度になります。
一方で、山口県にはフジ系が無いため、事実上TNCは山口県の広い地域でフジ系のテレビ局として見られており、他の福岡のテレビ局にとっての佐賀県の代わりが山口県という状態になってはいるとのことですが、実際に山口県の広告主がTNCに出稿しているかというと、そのケースは少ないそうです。
北九州のイメージが強いということと、全国紙系テレビ局の強さ、佐賀県で営業ができない影響もあり、TNCは地元新聞系で老舗V局でありながら、売上は4位に甘んじています。
RKB毎日放送-JNNの一角を担う老舗放送局
TNCのお向かいにあるのがRKB毎日放送です。その名のとおり毎日新聞系の放送局なのですが、現在は2位株主となっており、筆頭株主は大阪の毎日放送。TBSも主要株主に入っており、毎日系というよりは、いかにもTBS系列という印象の放送局です。
こちらはTNCに対してそこまで観光地化されているわけではありませんが、ロビーにはグッズ売店があり、ラジオスタジオは常時見学できるようになっていて、地域に開かれた老舗放送局の貫禄を見ることができます。
名古屋の放送局にも、かつてそういうオープンなところがあったのですが、ガラスが割られたり、物を投げ込まれたりといったことが幾度もあり、現在ではrkbのような「開かれた放送局」は名古屋には存在しません。
名古屋の場合は、TBS系のCBCが日本初の民間放送局ということもあり、老舗感が強い上に、かつて中部日本新聞(現・中日新聞)が作った中部日本放送という名前からもわかりますとおり、日本初、老舗、地元新聞系のトリプルコンボで存在感がものすごく強いのですが…。
rkbは地元新聞系ではありません。さらに、福岡市のラジオ九州(RKB)としてスタートしてはいるものの、先述のとおり「西部毎日テレビジョン」というこれまた八幡・小倉地区で開局準備をしていたテレビ局と合併して「RKB毎日放送」となっていることから、福岡市側の目で見ると、KBCよりも地元感が劣るというのですから面白いものです。
とはいえ、全国で4番目に開局したラジオ九州を起源としており、やはりTBS系列のラジオ・テレビ兼営局という、どの地域でも王道の老舗局ですから、報道を含めて、ブランド力は強く、ブロックネットがあることで売上が多めに出ているKBCをさらに上回って、売上トップを走っています。
ここまで、4大キー局の福岡の系列テレビ局を名古屋と見比べてきました。地元新聞・全国紙とテレビ局とのパワーバランス、県内に都市圏が複数あることからの「地元感」、放送対象地域ではないにもかかわらず実質カバーしている隣県という、名古屋とは大きく違う3つの特徴を知ることができました。
それではいよいよ、最も、名古屋の同系列と存在感の違うテレビ局へと行ってみましょう。テレビ東京系列の「TVQ九州放送」です。次へ…
コメント
トッピー様
まずは20周年、おめでとうございます。
過去に1回だけコメントを投稿したことがあるのですが、
10年以上前なので覚えていらっしゃらないでしょうね(笑
これからもお体に気を付けて更新を続けていってください。
自分は現在、日テレのグループ会社で勤務していまして、
所属部署には社長も出席した局長会議の議事録が
週頭に月2~3回配布されてきます。
会議の内容を要約したものや、新規事業の資料、
視聴者からの意見・推奨などが掲載されています。
その中には「11地区週間視聴率一覧」というのもあり、
大都市圏を中心とした各テレビ局の視聴率が
全日、プライム、ゴールデンと細分化されて載っています。
(月頭には民放が3局以上ある地域の月間視聴率表も載ります。)
記事にある通り、日テレ系列はここ数年、
視聴率三冠王を継続的に獲得しています。
前出の視聴率一覧表も各地で三冠王になっているのですが、
「北部九州」のFBSだけは獲れていません。
(二冠はけっこうあるのですが…)
FBSの沿革やネットワーク問題は知っていたのですが、
それが影響を及ぼしているんですかね…
この議事録ですが、日テレ目線とはいえ
放送マニアの人にはたまらないんだろうなと思います。
なぜなら自分も放送マニアだからです(笑
(当然のことながら社外秘なんですが…)
余談ですが、フジ系列の数字は本当にヤバいです…はい。