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第15回
ビジネスマンはきしめんで決まり
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2004.03.06 |

うどん屋さんとそば屋さん |
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「今日はソバ屋さんに行こうか。」

と私は会社の上司に言われ、頭に「?」が広がったことがあります。会社の近くに蕎麦
専門店なんてあっただろうか、新しい店でも見つけたのかなと思いついて行くとそこは
いつものうどん屋さんでした。「なんだここのことか…。」

このやりとりを不思議に思われるかもしれませんが、名古屋以外からやってきた人と食
事によく行く名古屋っ子にはわかる感覚だと思います。私の上司は九州出身、社会に出て
からは長年大阪にいた人です。上司は麺類を出す店のことをとにかく「ソバ屋さん」と言
うのです。これに対し名古屋では麺類全般を扱う店のことを「うどん屋さん」と言い、
ソバ屋さんと言えば「蕎麦粉にこだわっているような蕎麦専門店」のことを指します。

大阪と言えばきつねうどんの街。にもかかわらず、なぜ麺類店のことをソバ屋と呼ぶの
でしょうか。うどんが日本に入ってきたのは奈良時代と言われていますが、広く食べられ
るようになったのは江戸時代に入ってからです。関西を中心に四国へも広がり、その後甘
く煮た油揚げを入れるようになりきつねうどんは大阪名物の地位を得ることになるので
す。もっぱら蕎麦よりもうどんを愛する大阪人。しかしなぜ「ソバ屋さん」なのか。

これは私の上司の意見であって大阪の人が皆そうだというわけではないと思うのです
が、上司の答えは「あそこにはうどんだけじゃなく、蕎麦もきしめんもあるから。」とい
うものでした。つまり、うどん屋さんとはうどん専門店のことを指し、麺類全般を扱う店
をソバ屋さんと呼ぶ、名古屋っ子と正反対の感覚であったわけです。

推測ですが、大阪人にとってのうどん屋さんとは、本当においしいきつねうどんを出す
店を指し、それ以外をソバ屋さんと呼んでいるのではないでしょうか。(違っていたら大
阪の方教えてください)

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きしめんが特別 |
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大阪の人がうどん屋さんを特別扱いするのに対し、名古屋っ子は蕎麦が好きだからソバ
屋さんを特別扱いしているわけではありません。麺類を出す店の基本はうどん屋さんであ
り、うどんが食べられない蕎麦専門店のことをソバ屋さんと呼んでいるのです。「あそこ
へ行ってもうどんやきしめんは食べられないよ。」という意味合いなのです。ところ
で、名古屋っ子が大阪におけるうどんのように特別扱いをしているのはやはり「きしめん」です。
名古屋っ子が「おいしいきしめん屋さんをみつけたんだけど、行く?」と言えば、相当おいしいき
しめんを出す店だと考えられます。なぜなら、大抵の「うどん屋さん」ではきしめんを扱
っていますから。

大阪できつねうどんが生まれた理由のひとつに、早く出てくるという理由があります。
きつねうどんが開発される前は小田巻うどんが主流だったとのこと。小田巻とは、茶碗
蒸しにうどんが入っているものです。他に天ぷらうどんもありましたが、どちらにしても
調理に時間がかかり値も張る食べ物でした。そうかと言って素うどんは素っ気ない、そ
こで明治時代に誕生したのがきつねうどんなのです。大阪は商人の街、あらかじめ煮てあ
る油揚げを素うどんに入れるだけのきつねうどんは早くて安く、たちまち人気となったの
でした。

では、きしめんはいつ発生したのでしょうか。名前の由来としては、名古屋城築城の際
に岡田将監が雉(きじ)肉を入れた手打ちのうどんを召使に作らせ、その「雉子麺(き
じめん)」から来ているという説や、中国の点心「碁石麺」から来ているという説、紀州
出身者が名古屋で作った「紀州麺」からなど諸説あるものの、今の平打ちうどんのことを
いつからきしめんと呼ぶようになったのかは実は定かではありません。ただ記録によると、
江戸時代には三河地方に既にきしめんがあったそうです。

きしめんにもいろいろメニューはありますが、基本的には鰹節、ほうれん草、油揚げ、
揚げ玉が入っています。特にこの鰹節はきしめんに絡みつきよく合います。そのため、各
テーブルに甕に入った鰹節を置き取り放題にしているお店もあります。揚げ玉も同様で
す。

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| ▲宮きしめん。鰹節とだしときしめんのハーモニーがたまらない。 |
▲私の大好物メニュー、宮きしめんの卵とじきしめん。白醤油ベース。 |
「ころ」はじめました |
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「はい、ころたぬき2つねー。」

名古屋のうどん屋さんで夏場に聞く言葉です。何のことかわかりますか?

うどん、そば、きしめん。この3つに共通して、他の地方からやってきた人が驚くのが
「ころ」の存在です。大学時代、地方からやってきた友人は「ころできます」という文
字を見て首を傾げていました。ころとは夏場よく食べられるもので、うどん、そば、きし
めんの冷やしたものに、ざるうどんのつゆをかけてある食べ物です。ワカメや大根おろし
がのせられていて、口当たりはさっぱりしていて夏場にピッタリなのですが、あの濃いつ
ゆに浸かっているわけですから、味の濃さは半端じゃありません。

冷やしたダシにうどんを入れる、冷やしうどんとは全く別物です。ただ、いくらつゆが
濃いとは言え、この「ころ」も冷やしうどんと一緒で麺の味がはっきりと出てしまうた
め、麺に自身のあるにうどん屋さんでないとメニューに載せられません。ある意味、「こ
ろできます」と言うことで麺に自信があるという証拠にもなります。

さらには、海老の天ぷらをのせた「天ぷらうどんころ」というメニューを出すお店もあ
り絶品です。ころはつゆが濃いため、麺の半分くらいが浸かる程度にしかつゆを入れませ
ん。その冷やされた麺の上に、揚げたての天ぷらがまだパチパチと音を立てている状態で
乗せられ、うどんと一緒に口へかきこむ。これこそ名古屋の夏です。

あと、うどんといえば前回もお話した味噌煮込みうどんがありますが、ころが夏の食べ
物であるのに対し、味噌煮込みうどんは冬の食べ物というわけではありません。日本一蒸
し暑いと言われる濃尾平野の夏、しかしビジネスマンがびっしりと汗をかきながら、味噌
煮込みを食べる姿をよく見かけます。味噌煮込みは季節を問いません。

ところで、東洋水産の商品で「♪赤いきつねと緑のたぬき」というCMがありますが、赤
いきつねが油揚げの乗ったきつねうどん、緑のたぬきが天ぷらそばになっています。しか
しこれは全国共通ではなく、きつねとたぬきは地方によって別の食べ物となります。

大阪で「たぬき」と言えば、そばに油揚げが乗ったものを指します。きつねうどんの麺
がそばになっているものです。それが京都へ行くと全く変わります。京都では油揚げが乗
ったものをそれぞれ、きつねうどん・きつねそばと呼び、たぬきとはあんかけうどん、あ
んかけそばを指します。大阪と京都でも違いがあるのです。

これが東京へ行きますと、きつねは油揚げの入ったうどん・そばを指し、たぬきは揚げ
玉が入ったうどん・そばとなります。ですので東洋水産は東京方式なわけです。東京の
会社ですから当たり前ですが。

名古屋はどちらかと言うと東京に近く、さらに先ほどのうどん中心の思想から、「き
つね」と言えば「きつねうどん」、「たぬき」と言えば揚げ玉の入った「東京のたぬきう
どん」を指すことが多く、油揚げの入った蕎麦についてはわざわざそばを付けて「きつね
そば」と呼んでいるようです。

つまり、「ころたぬき」とは、冷たいうどんが、ざるうどんのつゆにつかり、そこに揚
げ玉が入っているものを指すのです。

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ビジネスマナー講座できしめん? |
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さて、名古屋で仕事中に上司や取引先と「うどん屋さん」にて麺類を食べる際気をつ
けなければならないのは、周りがきしめんを注文したときは必ず自分もきしめんを注文
しなければならないという点です。きしめんはその薄さゆえ茹で上がりが早く、驚異の
スピードでテーブルに運ばれてきます。うどんの比ではありません。

もし、上司や取引先といった食事の相手がきしめんを注文し、自分だけが蕎麦を注文し
ようものなら、名古屋のうどん店にとって蕎麦はかなりイレギュラーな注文であるため
時間がかかり、相手がきしめんを食べ終わる頃にしか自分の蕎麦は運ばれてきません。こ
れではかなりの時間相手を待たせることになります。

普段きしめんはあまり食べない名古屋っ子も、仕事上、相手に時間の配慮をしなければ
ならない昼食では必ずきしめんを注文するようにと、ビジネスマナー講習会でもこのよ
うに指導されます。

「名古屋のビジネスのおける昼食の基本はきしめんです。蕎麦は休日にゆっくりこだわり
の店で食べるものであり、仕事中に食べるメニューではありません。」

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| ▲名古屋で蕎麦が食べたくなったら、素直に蕎麦専門店に入りましょう。うどん屋さんでは後回し〜。 |
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