阪堺電車天王寺駅前駅(大阪・阿倍野区)
トッピーネット開設12周年特別企画、名古屋からちょっと遠出の大阪レポートです。
これまで私は、大阪へ遊びに行くとなると、やはりどう考えても大阪は名古屋よりも都会なわけで、大阪のアーバンな部分を感じるスポットへ訪れることが多かったものです。朝日放送新社屋なんかは、まさにそのアーバンでセンスのある大阪を見せつけられたわけですが、今回は打って変わって、ノスタルジックな大阪を感じようと思います。
郷愁漂う大阪を…ということで、コーディネーターをお願いした友人に、JR天王寺駅へと案内されてやってきました。近鉄百貨店など大きなビルが立ち並び、片側3車線の道路を多くの車が行き交います。かなりアーバンなんですけど…。
いきなり始まる路面電車
JR天王寺駅と地下鉄天王寺駅、そして近鉄大阪阿部野橋駅は隣接していて、徒歩で乗換えが可能です。駅の名前も違い、阿倍野区と天王寺区と行政区も違っていますが、JRと地下鉄と近鉄の駅は、同一のターミナルとして考えられています。ちなみに、近鉄阿部野橋駅のビルには近鉄百貨店が入っているのですが、このビルには建て替え計画があり、計画では高さ300メートルの日本一高いビルになる予定です。
そしてもうひとつ。近鉄百貨店の西側にひっそりと、かつ道路の中央に堂々と存在しているのが、阪堺電車(阪堺電気軌道)の「天王寺駅前駅」です。
阪堺電車は、ここから南へ伸びる「あべの筋」を路面電車として走ります。今でも唐突に現れる印象を受けますが、近鉄のビル建て替え計画が実現すると、高さ300メートルのビルの横を路面電車が走るという、コントラストがまぶしすぎる風景が繰り広げられることになります。
さっきまでの都会な風景が嘘のよう
あべの筋は、近鉄前交差点を起点に南へと伸びていてるのですが、阪堺電車上町線も同様で、その交差点が起点となっています。駅は道路の中央にあるため、歩道橋から降りて駅に入る格好になります。天王寺駅前駅のホームに立ちますと、あべの筋の西側には高い建物が少なく、アーケードの商店街が見られ、歩道橋を下った瞬間、まるで昭和にタイムスリップしてしまったかのような印象を受けます。
しかし、そんなアーケードなどにも、どうやら再開発工事の手が入っているようで、ひょっとしたらしばらくすると、東西を高層ビルに囲まれる路面電車の駅になるかもしれません。
大阪で唯一の路面電車
名古屋ではもう何十年も前に廃止されてしまい、最近では惜しまれつつも岐阜で廃止されたことが記憶に新しい路面電車ですが、この阪堺電車は、大阪で唯一の路面電車として運行を続けています。
路線は「上町線」と「阪堺線」。途中の住吉駅でクロスします。天王寺駅前駅から発車するのは「上町線」です。住吉公園までの4.6キロの区間です。
阪堺電車は1980(S55)年に発足した会社ですが、それまでの生い立ちはかなり複雑です。最初に開通したのはこの上町線で、1900(M33)年9月に馬車鉄道として開通、その後旧南海鉄道に合併され、戦時下には近鉄となり、戦後は新しく発足した南海鉄道へと引き継がれ、阪堺電車発足時に独立しているのです。
まずは天王寺駅前駅から、住吉駅まで乗ってみることにします。
車両もおもいっきり昭和
駅にやってきたのは、いかにも歴史を感じさせる昭和37年製のモ351。ワンマンカーとなっていて、乗車時には切符を買ったり、整理券を取ったりということはありません。乗務員室の横には、バスのような運賃箱が設置されています。
料金表示を見ますと、大阪市内および堺市内での1回乗車は200円。両市にまたがる場合と、住吉・我孫子道で乗り換える場合は290円という、わかりやすいような、わかりにくいような不思議な体系です。
発車時刻になりました。46年前に作られた車両に乗って、いざ出発です。しばらくはビルの合間の幹線道路、あべの筋を走り抜けていきます。岐阜市の路面電車を思い出しながら乗っていると、駅の安全地帯の立派さに目が行きます。
専用軌道になったり路面電車になったり
松虫駅からは、道路を離れて専用軌道になります。と言っても、スピードアップするわけでもなく、ゆったりのんびりと走ります。いかにもチンチン電車という感じで、頻繁に駅があり、目の前の踏切を子どもたちが渡って行きます。鉄道用の信号は全て黄色になっていて、運転士さんは細心の注意を払いながらの運行です。
東天下茶屋駅を過ぎると、再び道路と合流します。と言っても、先ほどのあべの筋ほどの道路ではなく、細めの道路。線路の外側にはそれぞれ片側1車線しかないのですが、そこに路上駐車の車があったりして、自動車は線路の上を走らないと進めないような状況も見受けられます。
まさに電車と自動車が共存しています。こんな環境でも路上駐車をするあたりが、さすが大阪。
駅舎もすごい
駅は基本的に、道路上にある安全地帯なのですが、姫松駅には道路の端に駅舎と言いますか、待合休憩所があります。この建物がすごい。まさに昭和。戦前を舞台にした映画にでもでてきそうな佇まい。思わず見とれてしまいます。
この駅舎の前で、いろいろな物語が繰り広げられてきたのでしょうね。実際に戦前からあった建物かどうかはわかりませんが、それこそ、息子を戦場に送り出す親御さんの姿なんてものを、勝手に想像してしまいます。
乗り換えの仕方がわからない…
電車は住吉駅に到着しました。私たちはここで降りて、阪堺線に乗り換えたいのですが、そのルールがよくわかりません。運転士さんに聞きますと、ここで290円払って、整理券を受け取って乗り換えてくださいとのこと。
290円をバスの運賃箱のような箱に入れます。すると運転士さんが手動で、これまたバスの整理券のようなものを手渡してくれました。これで阪堺線に乗ることができます。もちろん、IC乗車券など使えるわけがありません。ここは昭和です。
鉄道がクロスそして自動車も
住吉駅の降車場で降りて、車両を見送ります。しかしそれにしてもこの上町線と阪堺線のクロスはすごい。何がすごいって、阪堺線は路面電車でして、さらにそこに専用軌道の上町線が交差しているのです。ですから踏切といっても遮断機はなく、信号機で二方向の鉄道と車両が制御されているのです。もちろん電線はもう、こんがらがるんじゃないかってくらいに上空を覆っています。
交差するチンチン電車を眺めながら、懐かしい空気を感じるとともに、遠くまで旅行に来たもんだと、感慨深く思いながらカメラを構えたそのとき…。
そのマークはかつて…
カメラのファインダーに入ってきたのは、岐阜で路面電車を運行していた名鉄の「M」マーク。
なぜ?と思ったらそれは、名鉄グループの知多バスでした。住吉駅はその名のとおり、住吉大社に隣接した駅でして、どうやら知多バスは、その住吉大社にツアー客を連れてやってきたようでした。
大阪まで来て、路面電車を満喫している最中に、名鉄のマークを見るとは…。岐阜を思い出します。
阪堺電車は上町線の方が歴史が古いのですが、もうひとつの路線、阪堺線の方が路線も長く、社名にもなっているとおりメインです。住吉駅で阪堺線に乗り換えて、さらに路面電車を満喫します。まずは阪堺線の終点である浜寺駅前駅へと一旦向かって、次回はそこから引き返しながら街並みを眺めてみたいと思います。
コメント
阪堺電車に乗りにこられてたのですね!
びっくりです。
私も以前乗ったことがあります。神戸人の私にとって路面電車と言えば京都の嵐電(京福電鉄)だけでした。
ディープな大阪を味わってみたくてわざわざ乗りに行きましたよ。
最近は窓からの風がここちいい電車なんてないですから、すごくゆったりした楽しい時間でした。
名鉄も谷汲線とか、あれば乗ってみたかったですね。
(2008/07/22 9:27 PM)
>もっちんさま こんにちは
つい最近まで、大阪に路面電車があるということを知りませんでした。あれほど都心を走っているのに、今までその存在に気づいていませんでした。
確かに、阪堺電車の車窓から見える風景、感じる風は、これまで見てきた大阪とは全く別の一面でしたね。ゆったりした時間が流れていました。
名鉄は味のある路線はもうほとんど廃止してしまいましたからね。4年前に廃止された、三河線の猿投と西中金を結ぶレールバスも、味があってよかったのですけどね…。
(2008/07/23 10:14 AM)
名古屋では名鉄のちんちん電車が廃止になりましたよね。
大阪では阪堺電車が残っていますが、
堺市区間が近いうちに廃止されるそうです。
>ゆうさま こんばんは
ネット上で検索してみましたら、昨年10月の産経新聞の記事
「チンチン電車消える?赤字深刻の堺市内「廃線も視野」」を
見つけました。
今年度か来年度には、経営破たんの危機が迫っているとは…
鉄道路線の存続の危機は、決して地方だけの話ではないんですよね。岐阜もそうでした。
しかも、市のLRT化計画がほぼ合意しかけていたのに、
市長の交代により白紙になってしまったことも、追い討ちになったんですね。
堺市区間の赤字が、大阪市内路線のわずかな黒字を吹き飛ばしている…
ですか、となれば、部分廃止もあり得ますね…。
大阪市北部住みの私は、ほとんど阿倍野・天王寺に行くことがありませんでした。
今まで動物園に行くために立ち寄るぐらいで、もちろん路面電車に乗ったこともありません。
しかし最近ちょくちょく立ち寄るようになったのです。
ここには名古屋名物「世界の山ちゃん」が大阪で唯一出店しているからです。
なぜ阿倍野・・・?しかも近鉄阿倍野橋駅改札内にです。
あれが食べたくなるとわざわざ阿倍野まで出かけています。
梅田にもできるらしいんで、これからはそっちですみそうですが。
>よしさま こんばんは
大阪で世界の山ちゃんとは、時代も変わりましたね。
かつて大阪で、「手羽先」を注文したら、
煮付けになったものがでてきたことを思い出しました。
やっぱり、沿線の方でないと、
大阪の方でも路面電車にはなじみがないのですね…。
レポート拝見。詳しく観察されていて、勉強になりました。
名古屋から大阪へようこそ! 阪堺電車は2011年12月1日で開通100年になりました。そして、2012年は初代通天閣誕生から100年です。阪堺線恵比寿町駅から見上げる通天閣もええですよ(^_^)/
>熟塾 原田彰子さま こんにちは
お読みいただきありがとうございます。
今年は阪堺電車も通天閣も100年の記念イヤーなのですね!
大阪の奥深さといいますか、
多種多様な表情はたまりませんね。
また行きたいと思います!
ちょっと待ってください、名鉄は路面電車の敵ではないですよ。最後まで揖斐・谷汲線、美濃町線、岐阜市内線を守ろうとしたんですから、最後には他社(岡山電軌・両備グループ)に譲渡してまで残そうと奮闘していたんですから。本当の敵は岐阜県警です。安全地帯の整備を最後まで拒んだのですから。
>あのまのかりすさま コメントありがとうございます。
オチですよ。
この地方との接点となる、
せっかくのオチ要素が通りがかったのですから、
使わない手はありませんでした。
今年の2月に運賃を210円に値上げをして乗客数もあべの
ハルカスへ行く乗客に比例してふえていますが、天王寺
電停をあべの筋拡幅に伴い移設して改良します。それに
あわせ軌道も改良します。