「名古屋嬢」
そのネーミングセンスはともかく、ここ最近急速に全国区となった名古屋名物のひとつです。しかし、名古屋名物と言っても食べ物でも場所でもそして風俗でもなく、今まで名古屋名物としてはあり得なかったファッションスタイルを指す言葉として使われています。今回はそんな名古屋嬢とは何かに迫ります。
一躍全国区となった名古屋嬢
最大の特徴それは名古屋巻き
「名古屋巻き」と聞いて「今度はエビフライの巻き寿司でも登場したのか、それともかんぴょうの代わりにきしめんを使った太巻きか」なんて野暮なことを言う人は名古屋にはもういません。流行遅れなオヤジでも知っています。それは名古屋嬢必須の髪型です。
簡単に説明しますと、まずはストレートパーマをかけ、その後軽くレイヤーカットを施し髪の積み重なりに長さの変化を与え、毛先に段をつけ流れをつけます。これにより全体が軽くなります。そしてウェーブをかけるのですが、これは大きめのカーラーで一回転半ほどという緩やかなものです。これで完成そしてスプレー。毎日1 本使いきるほどスプレーします。
色は問いませんが、金髪ですとかなりゴージャスな印象になりますし、黒髪だと清楚なイメージを演出できます。また、どんな服装にも合うということで一躍人気になりました。名古屋巻きは一度美容院でやればいいというものではなく、毎日しっかりとセッティングしなければならないので保つのが大変です。
この名古屋巻き、考案したのはこの地方出身の美容師で現在は東京・青山にお店を構えていらっしゃる方です。「ナチュラルで、ゴージャスで、やわらか。」の頭文字を取ってナゴヤ巻きなのであって特に名古屋をイメージしたものではないそうです。発祥が名古屋なことには変わりありませんけれどもね。
ブランド品しか身につけない
名古屋嬢の服装は全てブランド品です。ただし、いかにもというものはあまり身につけません。「通」にしかわからないような限定品や、一見ブランド名は入ってないような感じだけれども実はブランド品といったものを好みます。
もちろん昔から名古屋の各デパートではブランド品を扱っていましたが、1999 (H11)年名古屋栄にルイ・ヴィトンの大型直営店がオープンし、レアな商品が名古屋で手に入るようになったことでさらにブランド志向に拍車がかかりました。さりげないことが大切ですので、「どこで買ったの？」「いくらしたの？」「これ、見て見て！」なんて会話はありません。
▲駐車場がいきなりルイ・ヴィトン直営店に。常に名古屋嬢がたくさん。
それはブランド品を買う理由を知ると納得します。見せびらかしたい、持ってることを誇りたい、そんな気持ちは名古屋嬢にはありません。長く使える良いものを選んだらそれがたまたまブランド品だったというだけのことなのです。かと言って他人と同じ物では満足できないことから商品選びにこだわるのです。
▲ヴィトンの近くには、三和銀行跡地にティファニーが進出。
目に力
名古屋嬢のメイクはとにかく目です。しっかりとアイメイクを施します。ただし、それが毒々しくはならない程度に押さえます。それでいて目を強調するために、全体的には色を押さえ頬全体をぼかすようにします。意外なのは、化粧品にはあまりこだわらないようで、自分に合いさえすれば100円ショップのものでも使います。このあたりに、服装は良いものを買うけれど、納得さえすれば消耗品には無駄なお金をかける必要は無いという名古屋っ子らしい発想を垣間見ることができます。
名古屋嬢の職業
名古屋嬢は「家事手伝い」でなくてはなりません。就職した時点で名古屋嬢にはなれません。フリーターなんてのはもってのほかです。ブランド品を買うために働くなどという行為は名古屋嬢のすることではありません。ではどうするのか。援助交際をしてそのお金でブランド品買うのか、それともパパに貢いでもらうのか、そんなのはもう問題外です。
名古屋嬢はブランド品をお母さんに買ってもらうか、もしくはお母さんの使っていたものをお下がりでもらう、これ以外の入手方法を経て得たブランド品を身につけている人は名古屋嬢失格です。
努力してもなれません
ということは、髪型、服装、化粧を真似すれば明日からあなたも名古屋嬢。というわけには行かないのです。名古屋嬢はお金持ちの家の娘であることが必須条件なのです。だって働かずにブランド品を身につけ、名古屋巻きを保つためにこまめに美容院に通わなければならないのですから。
専業主婦の母親と外車で栄に乗りつけ、二人で一緒にブランドショップを見て回り、親子共々納得した最高の商品を買う。そして普段は花嫁修業に勤しみ、いつか父親のような人と結婚をして今度は自分が専業主婦となり娘とブランド品を買いに行くのが夢。これが本当の名古屋嬢です。ですから父親が社長もしくは大手企業の重役クラスでなければ名古屋嬢とは言えません。
青年実業家はお断り
名古屋嬢はいかにお金持ちと結婚するかを模索するわけですが、お金があるだけの男性は除外です。今、はやりのIT産業で大儲けした青年実業家なんてのは対象外になってしまいます。そんないつダメになるかわからないような業種は認められません。
石橋を叩いても渡らない名古屋っ子、バブルの時でさえ浮かれなかった名古屋っ子。名古屋嬢にはそんな名古屋っ子の血が脈々と受け継がれています。ですから、結婚相手に求めるのは経済力だけではありません。家柄です。
名古屋嬢になろうと頑張っても...
一生懸命アルバイトをしてブランド品を買い、100円ショップで自分に合った化粧品を選び、毎朝カーラーで何時間もかけて名古屋巻きをセットしたとしても、それは所詮名古屋嬢の真似をしているだけのことであって、本物の名古屋嬢にはなることは一生不可能です。
万が一その名古屋嬢の真似をしている女の子が、ものすごいお金持ちで家柄のしっかりした男性と結婚できたとしても、名古屋嬢になれるのはその娘からなのです。一度でも社会に出て働いてしまった女の子は名古屋嬢ではありませんし、母親と仲良くブランド品を揃って身につけることができなければ名古屋嬢とは言えないのです。
ファッションスタイルを指す言葉ではない
名古屋嬢がごく限られた、ほんの一握りの女性であることがお分かりいただけたと思います。名古屋嬢は、幼稚園から大学（短大）まで有名私立学校に通い、蝶よ花よと育てられます。卒業後は家事手伝いとなり花嫁修業を完璧に行い、家柄の良い男性の登場を待ちます。
とにかく母親とは仲が良く出かけるときはいつでも一緒。そしていよいよ白馬の王子さまが現れ結婚。両親から嫁入り道具という形で財産分与を受け、名古屋流の結婚式を挙げるのです。もちろん結婚後も働きません。専業主婦となり今度は自分の娘を名古屋嬢として育てるのです。
果たして、この名古屋嬢の一生が幸せなのかどうかは価値観次第ですが、もしなれるとしたらあなたは名古屋嬢になりたいですか。という質問自体がナンセンスですね。名古屋嬢とは、同じ名古屋に住んでいても全く別世界の人々なのです。
つまり名古屋嬢とは、実はファッションスタイルのことではなく「身分」を表わす言葉なのです。
▲見た目だけ名古屋嬢には充分お気をつけ下さい。でも、本物名古屋嬢と付き合うには家柄とお金が必須です。