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ニュータウンの夢は今、絵空事に-桃花台

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 新しく生まれるものがあれば、消えていくものがある。それがこの世の中の常ではありますが、今、名古屋近郊には「新」という名を付けたまま間もなくその姿を消そうとしているものがあります。それはピーチライナーという愛称を持つ、「新交通システム桃花台線」です。ピーチライナーが運行を開始したのが1991(H3)年の3月25日。ピーチライナーはわずか15年の歴史に間もなくピリオドを打とうとしています。なぜ名古屋近郊のベッドタウンを走る「新交通」が廃止という末路を迎えることになってしまったのか。車窓の風景を見ながら考えてみます。

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 小牧市に「桃花台ニュータウン都市計画」が決定したのが1971(S46)年。近くには多摩や千里と並ぶ、名古屋地方では先駆け的な存在である高蔵寺ニュータウンがあり、それに続く格好となりました。計画人口は54,000人。JR中央本線の沿線に作られた高蔵寺ニュータウンとは違い、桃花台には交通手段が無かったことから、無人運転による新交通システムの導入が検討されました。そして1979(S54)年10月には宅地分譲が開始されました。私は当時、愛知県住宅供給公社の賃貸住宅に住んでおり、親が桃花台の宅地を購入して引っ越していく同級生が何人もいたことを覚えています。

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 その年の12月には桃花台新交通株式会社が設立され、軌道事業特許取得や高架軌道着工を経て、1991(H3)年3月25日に新交通システム桃花台線が開業しました。小牧市の市街地にある名鉄小牧線小牧駅と桃花台ニュータウンの中心にある桃花台センター、そして桃花台東駅を結ぶ7.4キロで運行が開始され、実際には有人運行となりました。開業直前に策定された1日の利用者予想は12,000人だったのですが、いざ蓋を開けてみると開業当初の利用者は1日約2,000人。後の報道で明らかになったのは、その利用者予想は競合他社を全く考慮していなかったというのです。

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 ピーチライナーの終点である小牧駅で乗り継ぐことができる名鉄小牧線は、名鉄といっても盲腸線で、終点の上飯田駅で降りても地下鉄平安通駅までは約1キロの道のりを歩かなければなりませんでしたし、平安通駅から名古屋駅までは乗換を経て14分地下鉄に乗車する必要がありました。

 桃花台センター駅からピーチライナーを利用して名古屋駅まで行こうとすると、小牧駅までピーチライナーで12分。小牧駅から上飯田駅まで16分。そこから1キロの徒歩にプラス地下鉄14分かかったわけです。

 それに比べ、桃花台センターからバスでJR中央本線の春日井駅まで22分かけて出れば、そこから名古屋駅まで直通で20分です。

 2003(H15)年3月27日、名鉄小牧線と地下鉄平安通駅が地下鉄で結ばれ、約1キロの徒歩が解消されるも時既に遅し。結果、開業から15年でピーチライナーの累積赤字は64億円にも膨らみました。ピーチライナーには、JR中央本線の高蔵寺駅までの延伸計画があり、用地買収も若干行われたものの、累積赤字が溜まっていく一方では約1,000億円という延伸費用が捻出できるわけもなく、また、噂で名古屋空港との接続も考えられていたそうですが、空港自体が常滑市沖のセントレアにお引越ししてしまったため、ピーチライナーはどうにもならなくなってしまったのです。

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 愛知県はなんとか別の形で存続させようと模索し、愛・地球博の会場内輸送で使われた磁気誘導式無人バス(IMTS)の導入を検討するも資金面と実用化の難しさに断念。ピーチライナーをそのまま存続させるためには、運賃を現在の250円から640円に引き上げるか、毎年2億6000万円の公的資金をこれからも投入し続けるという非現実的な条件が県から挙げられ、2006(H18)年3月28日、ついに愛知県と小牧市は9月末での廃止を決定。4月6日には桃花台新交通の取締役会が開かれ、9月30日で営業を終了することが正式に決定されたのです。県や市、そして企業からの桃花台新交通への出資金は全て戻ってこないだけでなく、約100億円の撤去費用、そして建設時の国からの補助金返還など、廃止後も問題だらけです。

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 先日、私たちは実際にピーチライナーに乗車してきました。桃花台センター駅には5つの自動改札があり、うち1つが名古屋市交通局や名鉄などで共通利用できるストアードフェアシステムである「トランパス」対応となっています。しかし対応になっているのは各駅1台の改札のみで、切符の販売機や乗り越し精算機は一切未対応となっていますし、ピーチライナーとしてはトランパスのカードを発行しておらず、名鉄のカードを発行しています。それだけに留まらず、乗り越し精算機には「新型紙幣は利用できません」の文字が。新型紙幣って...導入されたのは2年近く前の2004(H16)年11月です。もう巷には新しいお札ばかりで、夏目漱石の千円札を持ち歩いている人のほうが少ない状態です。にもかかわらずこの精算機は夏目漱石にしか対応していないのです。そんなことにかけるお金など、びた一文も出せないというピーチライナーの苦しさが、ベタベタと貼られた注意書きに如実に表れています。

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 ピーチライナーは全ての駅がホームドアとなっていて、桃花台センター駅は地下にある格好になっています。ピーチという名にちなんでか、駅の配色は全てピンクとグレーで統一されていて、統一感があります。一般的には黄色で配色されている、視覚障害者誘導用ブロックもピンクになっています。駅にはクーラーは無く、ホームドアの上部が開けられているのみで、風の無い日、太陽の照りつける高架駅では蒸し風呂状態になります。

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 駅構内や列車内には桃のイラストが描かれ、ドアにご注意や優先席の案内など、かわいらしく描かれています。色にしてもキャラクターにしても統一感があり、CIはよくできていると思います。しかし、CIがよくできているだけでは公共交通としての存在意義はありません。利用されなければ何もなりません。

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 ピーチライナー廃止後は、小牧市のあおい交通が代替バス「ピーチバス」の運行を計画していますが、運賃はピーチライナーよりも50円高い300円となる見込みです。

 桃花台ニュータウンには現在、27,530人が暮らしており、この街のためだけのテレビタワーまであります。1986(S61)年に建設された小牧桃花台中継放送所からは、NHK・民放あわせて7つのテレビ電波が発射されています。しかし発射されているのはアナログ放送。2011(H23)年には終了し、デジタル放送一本となるのですが、この桃花台ではデジタル放送の受信状況はあまり良くないにもかかわらずデジタル放送の放送所は置かれる予定がありません。

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 さらに、そのような先のことだけではなく現実的な問題もあります。それは地盤沈下です。2006(H18)年3月頃、桃花台ニュータウンで地盤沈下が発生している問題が明るみとなり、9月には桃花台ニュータウンを分譲した旧住宅・都市整備公団(現・都市再生機構)が、土地を造成した愛知県を提訴する事態になっています。

 新しくできる街のために、土地が造成され、テレビタワーが建設され、新交通が敷設され...。完璧に完成されたはずの新しい街では今、様々なものが音を立てて崩れ始めています。

 私は小学生の頃、そんな新しい街に住居を構えて引っ越す同級生たちをうらやましく思ったものです。住宅を造成し売るということは、そこに暮らす人々の将来という夢を売るのと同じことです。いざ将来が現実になった時、かつて描かれた夢がただの絵空事だった。それが桃花台ニュータウンです。ピーチライナーに地盤沈下。どの責任を誰が取るのか。結局、責任の所在は明確にされずうやむやになるのでしょうけど、これが典型的なお役所仕事の結果という認識をされてしまっても、それは仕方が無いことでしょう。

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桃花台センター(愛知・小牧市)


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