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16「下志段味」
新しい街が作られる背景にあるもの
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 志段味。それは守山区の北側約3分の1に渡る地名で、かつては志段味村という名で存在していました。名古屋市からは飛び出たような場所にあり、北を春日井市、南を尾張旭市、そして東を瀬戸市に挟まれた場所です。かつてはあまりの僻地ぶりから、名古屋っ子の間では人のいない状況を指す言葉として使われてきました。
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▲「何も無い」場所がいまだたくさんある志段味地区。

 使用例としては「消化試合のナゴヤ球場はさすがに志段味状態だがや。」「こんな味じゃこの店志段味になってまうよ。」といった具合です。もちろんそれは嘘ですが、そう言いたくなるほど「志段味」という地域はへんぴ…じゃなくて、自然が豊かで古き良き風景が残っていた場所なのです。ところがそんな志段味が今、大きく変わりつつあります。大曽根とを結ぶガイドウェイバスの開通、そして道路の拡幅、区画整理により一大ベッドタウンへと姿を変えつつあります。さらにはサイエンスパークの整備によって企業の開発部門を誘致するなど、新たな展開を見せています。そんな変貌の真っ只中にある志段味地区を歩きます。
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▲そんな何も無い場所に新たに道路が作られ。画像 ▲既存の県道も拡幅工事が進んでいます。

 これまでずっと県道15号を北東へ歩いてきましたが、東名高速道路のガードをくぐったら、最初の交差点を右折して一旦外れます。物流センターや県営吉根住宅を見ながら突き当りまで歩きます。すると県道214号線にぶつかります。この道路は尾張旭市の印場から中志段味、そして志段味橋を経由して春日井方面へと抜ける道で、クネクネと曲がりながら山間部を縫っていきます。この道路には名古屋市営の市バスが運行されているのですが、最寄に地下鉄の駅が無いことから、尾張旭市の印場駅発着で名鉄電車へアクセスさせるという不思議な光景が生まれています。尾張旭市地内にも名古屋市営バスのバス停が設置されています。
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▲クネクネと、山間部を走っていた名残がある県道214号。

 では中志段味方面へと歩きます。すると左手には児童自立支援施設玉野川学園と志段味スポーツランドがあります。テニスコートやバスケ、バレーコートとして使える競技場のほか、ウォータースライダーのある屋外プールや少年野球場、トレーニング室などが完備されています。志段味スポーツランドの案内看板を見ると、その先の名古屋市消防学校や釣り池の風越池、そして老人福祉施設寿楽荘までもが一緒に書かれていました。消防学校には、訓練に使用されると思われるタワー状の建物が。ここで訓練された方々が市民を火の魔の手から守ってくれるわけですね。
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▲児童自立支援施設の玉野川学園。画像 ▲屋外プールなどがある志段味スポーツランド。画像 ▲あのタワーで訓練するのでしょうね、名古屋市消防学校。

 志段味スポーツランドで一汗かいて、疲れたとしてもこのあたりでは「疲れた〜」などと軽々しく言わないほうがいいですね。消防学校の方々はもっと疲れることをやっているのです。しかも仕事で。楽しいスポーツで「疲れた〜」なんて声が消防士さんの耳に入ったら大変です。
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 緑に囲まれた県道をさらに北へと歩きます。すると急にあたりが開け、何やらガラス張りの豪華な建物が見えてきます。更地が目立ち、ようやく住宅がポツポツと建ち始めたこの界隈には不釣合いな気がしてしまうほどの様相です。門を見ると「なごやサイエンスパーク先端技術連携リサーチセンター」と、メモしなければ覚えられないような長ったらしい名前が書かれています。バス停は「志段味サイエンスパーク」となっていて、スーツ姿の人が待っています。さらにその先にも、その関連施設と思われる建物がいくつも建っています。志段味に一体何が生まれたのでしょうか。
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▲なごやサイエンスパークの産業技術総合研究所中部センター。画像 ▲こちらは先端技術連携リサーチセンター。画像 ▲続いて、サイエンス交流プラザ。

 時は1987(S62)年に遡ります。江戸時代から物づくりが活発であった名古屋は、現代も自動車産業など産業技術において重要な地位にあります。それをさらに次世代へ繋げようと、名古屋市産業振興懇談会の「産業活性化計画」として生まれたのがこのなごやサイエンスパーク事業です。産・学・行政の連携した研究開発拠点として、自動車などの既存産業からさらに発展して、エレクトロニクスやバイオなど先端技術産業の振興や、優秀な人材が集まる環境を目指しているとのことです。その「集まる環境」がが重要なポイントなのです。
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▲研究開発センター。こういった施設がサイエンスパークを形成。画像 ▲そのためゆとりーとラインがここまでやってきます。画像 ▲更地の場所にも、将来的には研究者の住宅が造成されることでしょう。

 志段味は自然が豊かで、ようやく住宅建設が始まったばかりで住宅用地がまだまだ確保できます。そういった優柔な人材にここで研究してもらうだけではなく、ここに住んでもらおうというのも狙いなのです。志段味を働く場、住む場、憩い場にしたいというのが、なごやサイエンスパーク事業の狙いです。研究者に24時間365日志段味にいてもらおうというわけです。つまり、がむしゃらに馬車馬のように働けということですね。なるほど。
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 足をさらに北へと進めます。すると新旧の道路が混在する風景になります。昔からの住宅や道路がある横に、巨大な更地や真新しい道路が作られています。しかしまだ、新しい道路は少し行っただけで行き止まりになってしまうような状態です。将来的には大きな住宅地となり、そこは研究者たちが寝るためだけに帰る家…もとい、気楽にのびのびと暮らす研究者の嫁たちが集うベッドタウンとなることでしょう。
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▲既に住宅が建設され始めている場所も。

 雨池南という交差点を左折します。すると志段味支所と志段味中学校があります。ここはかつて志段味村の中心部だった場所です。志段味支所のすぐ近くには「東春日井郡志段味村役場跡」という石碑が建てられています。石碑には丁寧に「ここから北西へ180m」とも彫られています。それは現在の志段味中学校の場所になります。志段味村は1889(M22)年に志談(しだみ)村として誕生し、その後志段味村と上志段味村に分裂するも再び志段味村として合併し、1954(S29)年に守山町と合併するまで単独で存在していました。現在の志段味支所は1985(S60)年に新築されたもので、その向かいにはさらに新しい東春信用金庫があります。立派な道路も作られています。ところが。
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▲ポツンとあるのは名古屋市志段味支所です。画像 ▲志段味村役場跡を示す石碑。画像 ▲こちらもポツンと信金。ちょっと先走ってる感があります。いや、先見の明。

 周囲はいまだ畑だらけです。しかしじわじわと新しい住宅地がその畑を侵食するように立てられています。ふと見ると、お年寄りが畑で農作業をしていました。するとそこに軽自動車がやってきて、スーツの男が一人車から降りました。その男は、何やら資料を持ってそのお年寄りのところへ。お年寄りは聞く耳持たずの様子です。なんとなくわかりました。土地の売却交渉でしょうね。確認したわけではありませんが、明らかにそんな様子でした。確かに、道路整備と宅地開発が進めば「名古屋市」というブランドのあるこの場所は地価が上昇することでしょう。でも、ずっとこの志段味を愛し住み続けてきた人に土地を売らせて別の場所に住んでもらうというのも酷な話です。
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▲まだ畑がたくさん残っています。画像 ▲夕暮れ時に、お年寄りに交渉する不動産業者…かな。

 新しい街が作られる裏側には、様々な駆け引きがあるものなのだと、その現場と思われる様子に触れ実感させられました。
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