ちょっとほろ苦い!?名古屋と「海老ふりゃあ」名物でなかったものが名物に

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イラスト

海老フライ

私は幼い頃から良く食べていましたが、名古屋の食べ物だという意識はありませんでした。実際、海老フライは全国どこへ行ってもありますし、冷凍食品としても一般的で大手メーカーから発売されています。海老フライは名古屋名物と言えるのでしょうか。

海老ふりゃぁは名古屋名物では無かった

現在では名古屋名物としての地位を着々と固めつつある海老フライ。しかしその歴史は浅く、きっかけは20数年前の出来事でした。それはタモリさんです。彼は20数年前、名古屋で「海老フライ」のことを「海老ふりゃぁ」と言っているのを耳にし、それをネタにしたのでした。

その「ふりゃぁ」という語感が名古屋弁の特徴をよく表現できていたこともあり、それにまつわる名古屋の嘲笑ネタは一気に全国へと広がり、名古屋と言えば海老フライというイメージが出来上がるほどになりました。

しかし、実際に地方の人が名古屋へやってきても、当時は海老フライが特に名物というわけではなかったので、海老フライの専門店を見つけることは困難を極め、海老フライを口にすることなく帰路につくという人がほとんどでした。

日本全体の平均ですが、一人が年間に消費する海老の量は2.3kgでアメリカの2倍。もちろん世界一です。名古屋が特にというわけではなく、日本全体が海老好きなわけです。この2.3kgを海老フライに換算すると80匹。

日本人は平均して4.5日に1回は海老フライを食べていることになります。もちろん、海老の消費が全て海老フライというわけではありませんから、実際の数字はこれよりも少ないと思います。

まんざら無縁なわけでもない

では、名古屋と海老の間には全く関係が無いのかと言うと、実はそうではありません。どこの県にも県の花や県の木といったものがありますが、愛知県の魚は「クルマエビ」です。エビ科の節足動物を魚と呼んで良いのかどうかという話もありますが、三重県の魚も「イセエビ」なので、それはこの際抜きにして、どうして愛知県の魚がクルマエビに決まったのかを調べてみました。

県の「魚」がクルマエビ

まず、クルマエビは愛知県の沿岸又は内水面で生産されその漁が相対的に多いこと。次に、生産量が全国的に上位であること。そして県内で消費者に広く親しまれ、知名度が高いこと。さらに現在及び今後、資源拡大を積極的に推進する主要魚種となり、県水産業のイメージアップとなると期待できることから、「愛知県・県の魚選定委員会」にて満場一致で選定されました。

確かに漁獲量も生産量も多く、消費量も全国平均を上回ることからこれらの理由は納得できるのですが、ただひとつ引っかかるのが、県の魚にクルマエビが選定されたのは1990(H2)年のことで、比較的最近であるということです。

実は、タモリさんが「名古屋=海老フライ」というイメージを作った後、それは、もともと印象の薄かった名古屋のイメージのひとつとして、全国に浸透し始めたのです。それを利用しない手は無いと、名古屋は海老フライを名物へと仕立て上げていくのです。

エビフライぬいぐるみ
▲今や名古屋のおみやげやさんにはエビフライグッズが並ぶ…。

嘲笑ネタを利用せよ

タモリさんがネタにしたのが20数年前、その後時期的にそういった気運が高まりつつあったからこそ、県の魚をクルマエビに制定したのではないでしょうか。確かに、愛知県と言って思い浮かぶ魚などありませんし、名古屋の海老フライの知名度は高まりつつありました。また、名古屋城のシンボルである金鯱に、どことなく海老フライとの共通点がある気もしないではありません。

エビフライを利用しはじめた

そしてその勢いはエスカレートしていきます。タモリさんに揶揄された名古屋の反撃、いや便乗商売です。もともと名古屋の名物料理に味噌カツがあります。カツのお店には当然フライヤーがありますので、海老フライを調理することができます。そして生まれたのがカツ屋さんの「巨大エビフライ」です。

いくつかのお店が出していますが、なかには30センチを越える海老フライを出す店もあります。しかしそれは珍しいことではなく、名古屋の洋食屋さんに入れば、30センチとは行かなくとも大きな海老フライがメニューとして大抵はあるというところまで、海老フライは名古屋名物としての地位を高めたのです。今では、名古屋に来て海老フライを食べられずに帰るといった事態は起きません。

エビフライには味噌はつけない?

しかし、海老フライには赤味噌をつけるという話を聞きません。とんかつにも赤味噌をつけ、何にでも味噌をかけようとする名古屋っ子も海老だけには合わなかったからなのでしょうか。ひょっとしたらその味噌の味の濃さで、海老の風味が消えてしまうからかもしれません。もしそうなら、他の食材の風味についてはどう考えているのでしょうか…。

しかし海老フライを名物にしようと思ったときに、味付けや調理方法ではなく、ただ衣をつけてつけて巨大にすればとにかく名物になるだろう、というのはちょっと安直すぎやしませんか…。それがシンプルでおいしいのかも知れませんけど。

今では海老フライのぬいぐるみ、携帯ストラップをはじめ、キティちゃんまでもが海老フライに乗っかっています。今日、海老フライはすっかり名古屋名物として定着したのでした。

天むすと聞いて名古屋っ子が思い出すこと

えびせんべいは確かに名物

さて、名古屋にはフライ以外にも有名な海老の食べ物があります。愛知県の知多半島と渥美半島に挟まれたちょうど真ん中、三河湾に面する一色町という小さな町があります。この町、なんと「海老せんべい」の生産量日本一を誇る町なのです。アカシエビと呼ばれる体長数センチの海老を原料としていて、漁獲したその日のうちにせんべいになってしまいます。

えびせんべいの里
▲えびせんべいの里は試食食べ放題、コーヒー飲み放題。

一色町にある一色さかなセンターでは、新鮮(?)な海老せんべいを買うことができます。他にも美浜町には「えびせんべいの里」という試食食べ放題、コーヒー無料で飲み放題の直売店があります。また、東海市にある「坂角総本舗」の海老せんべい「ゆかり」は江戸時代から贈答品として利用され、名古屋の高級なお土産として今もその地位は揺るぎません。

忘れちゃいけない天むす

まだまだ名古屋には、海老を使った名物があります。「天むす」です。天むすとは、おにぎりの頭頂部に海老の天ぷらが差してあるもので、片手で気軽に一口で、海老の天ぷらとおにぎりを食べられるという合理的な食べ物です。

天むすはもともと三重県津市にある天ぷら料理店のまかない料理で、それを商品化したものです。天むすという名はその元祖「めいふつ天むす千寿」の登録商標となっています。店舗は発祥の地である津市と名古屋市内にしかありませんが、2005(H17)年に開港する中部新国際空港に出店が決まっています。

天むす
▲元祖、めいふつ天むす千寿の天むす。きゃらぶきが必ず添えられます。

それにしてはこの天むす、今では全国的に名古屋名物として知られているだけではなく実際に各地で販売されていますが、それは他に「天むす」を全国展開しているお店がいくつかあるからです。最初に全国展開をしたのが、現在東京駅でも販売している「天むす・すえひろ」です。その名を聞いて、名古屋っ子なら必ず思い出すことがあります。

それは、この「天むす・すえひろ」の社長を務める末広真季子さんについてです。彼女は1970(S45)年、大阪万博のテレビレポーターとしてデビュー。その後1973(S48)年から1993(H5)年まで東海ラジオの「真季子とともに」のパーソナリティとして親しまれました。その間の1986(S61)年に「天むす・すえひろ」を設立し、名古屋の味天むすを全国に広めたのでした。

そんな末広さんは参議院議員選挙に立候補します。1995(H7)年、愛知万博反対を掲げ、無組織、ボランティア、無党派をキーワードに万博反対派の支持を広く得て見事当選を果たしたのです。

しかしその3年後。1998(H10)年に突如自民党に入党。自民党は、もちろん愛知万博を推進していました。その際記者から「万博に反対して当選したあなたが、なぜ万博推進の自民党に鞍替えするのか」「万博反対派に対してこれをどう説明するのか」と飛ぶ質問に末広さんはさらりと答えたのでした。

さぁ、あなたも「愛・地球博」の新聞記事やニュースを見ながら天むすを頬張り、末
広さんの名言を言い放ってみましょう。

万博?いい方向に向かってるじゃないですか

その後、末広さんは2001(H13)年の参院選に自民党比例で出馬するも落選。

万博会場にもし「天むす・すえひろ」が出店していたら全ての謎は解けますね。なるほどそれが「いい方向」だったのか、と。さすがにもう出店はしないかな。
※結局出店はありませんでした。

イラスト
▲「♪あなた~の土曜日~、真季子~とともに~」というジングルが懐かしいです。万博見に来るかな…?

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