三重テレビで式年遷宮に向けた特別番組・遺産であり、遺産ではない…伊勢神宮

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時を紡いで~遷宮・お木曳の記録~

5月31日、三重テレビで「時を紡いで~遷宮・お木曳の記録~」という特別番組が放送されました。全編ハイビジョンで制作されたこの番組は、伊勢神宮の式年遷宮についてのドキュメンタリーでした。式年遷宮とは、簡単に言いますと20年に一度、伊勢神宮の社殿などを新築する行事のことです。伊勢神宮の建物や鳥居、橋などは20年に一度造り替えられるのです。

前回遷宮が行われたのは1993(H5)年。次回の遷宮は2013(H25)年です。その2013(H25)年に向けて既に行事は始まっています。今回の番組は、新しい社殿に使う木を木曽の山から切り出す昨年5月の「山口祭」から、その木材を神域まで運ぶ「お木曳」を記録したものでした。

番組は、ただ行事を追いかけるだけではなく、デンマーク人建築家のスヴェン・ヴァスさんの目線から、伊勢神宮の式年遷宮が持つ意味を改めて考察することで、式年遷宮そのものに興味を持てる作りになっていました。

20年ごとに作り変える式年遷宮

式年遷宮が始まったのは、諸説ありますが内宮が690(持統天皇4)年、外宮が692(持統天皇6)年といわれています。それ以降、延期などはあったものの1,300年以上に渡って20年ごとに式年遷宮は続けられているのです。前回1993(H5)年が第61回、次回2013(H25)年が第62回です。

20年に一度立て替えを行うのには様々な意味があります。もちろん社殿の老朽化という面もあるのですが、番組によると20年という期間は、技術の伝承にとても良いのだそうです。20年に一度立て替えを行うことで、建築手法を後世に伝えていくことができるのです。

木曽の山から切り出されたお木は…

番組では、木曽の山から切り出された「お木」が、長野、岐阜、愛知、三重と木曽川沿いの街を運ばれる様子と、伊勢まで運ばれたお木を、神領民が神域へと運ぶ「お木曳」の行事を紹介していました。木曽川沿いを運ぶのは、かつてお木が木曽川の水運を利用して運ばれた名残なのだそうです。木曽川沿いの人々にとっては、これが唯一触れることができる遷宮の行事となります。そして伊勢では、地元の人々が威勢良く街中を運ぶのですが、一歩神域に入ると一切声を出さずに身振り手振りで安置するのです。神さまとの会話は言葉ではなく心でする、ということのようです。

デンマーク人建築家の目線

番組中のスヴェンさんの言葉のなかで、印象的だったものを紹介しましょう。

「伊勢神宮はピラミッドやパルテノン神殿、モスクなどと並んで世界の代表的な古代建築といえるにもかかわらず、建物自体がすべて新しい点が他とは全く異なる。しかし建築様式や精神は古い。新しいのに古いという二面性がある。」

確かに、今、伊勢神宮へ行くと、その社殿や鳥居はわずか13年前に建てられたものであり、建物自体は古いとは言えません。ところがその建物の建築手法は千年以上前のままなのです。その二面性は世界で唯一と言えるでしょう。そこが伊勢神宮は遺産でもあり、遺産ではなく生きていると言うことができる不思議なところです。

「永遠は変化し続けるもの。森は、今と200年後ではそこにある木は違う。しかし森の雰囲気は今も200年後も同じである。それが自然の循環であり、神宮はその自然にとても近い存在である。森の木が生え変わるように、20年ごとに神宮は生まれ変わる。」

この言葉に私は目から鱗が落ちました。「なるほど」と思うと同時に「う~ん」とうなってしまいました。

昔からの建物や自然は、そのままの状態では永遠にならないのです。数百年前の建物がもし今壊れてしまったら、当時のまま復元するというのは不可能でしょう。どうしても推測の部分が出てきてしまうはずです。

作りかえるからこそ永遠が保たれる。新しくすることで伝統を守ることができる。今回の番組を見たことで、式年遷宮が持つ意味を、言葉だけではなく心から改めて認識することができました。

いよいよ始まった祭典と行事

昨年始まった遷宮に向けての祭典と行事は、7年後2013(H25)年10月まで続きます。

私は特に思想を持っているわけではないのですが、伊勢神宮に行くと何か感じるものがあります。私の家から伊勢までは結構距離があるのですが、何度か行ったことがあります。私事ですが、ようやく喪も明けましたので、仕事が落ち着く今月中頃あたり、伊勢神宮に参拝に行ってこようと思っています。

内容だけでなく、番組自体も落ち着いた作りで、じっぐりと集中して見ることができました。一色アナウンサーがディレクターもされていらっしゃったことに驚きです。どおりでここ最近、ニュースでお見かけすることが無かったわけです。お疲れさまです。

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コメント

  1. Piichan より:

    いちいち建て替えるのは大変ではと思っていたのですが、きちんとした意味があるのですね。
    (2006/06/09 4:53 PM)

  2. 柴田晴廣 より:

    トッピーさん
     はじめてコメントさせていただきます。
     内宮の式年遷宮がはじまったのが、持統四(六九〇)年との説、実は、このとき、内宮は現在の位置にはありませんでした。
     現在の位置に内宮が遷るのは、文武二(六九八)年一二月二九日のことです。
     『続日本紀』巻一の同年同月同日条に「多気大神宮を度会に遷した」との記載です。
    (2006/06/09 6:46 PM)

  3. トッピー@管理人 より:

    >Piichanさま
    こんばんは。
    私も、前回の遷宮の時は何が目的なのかがはっきりわからず、そういうものなのだと何気なくテレビを見ていたのですが、今回の三重テレビの特番でよくわかりました。
    >柴田晴廣さま
    こんばんは。
    その頃は別の場所にあったのですね。しかし、その当時のそういった記録が残っていること、そして式年遷宮自体が今も続けられていることにロマンを感じますね。
    (2006/06/15 12:59 AM)

  4. 柴田晴廣 より:

    トッピーさん
     返信ありがとうございます。
     加えておけば、持統四年に式年遷宮がはじまったとする根拠は、十世紀に書かれた「太神宮諸雑事記(だいじんぐうしょぞうじき)」の記載です。
     一方、上述の「続日本紀」は、延暦一六(七九七)年に成立しています。
     また、万葉集の人麻呂が詠んだ草壁の挽歌から、持統三(六八九)年には、アマテラスという概念は存在しませんし、同じく高市の挽歌(高市は、持統一〇年死亡)から、伊勢の巨大建造物の存在が否定できます。
     皇祖神アマテラスを容れる器=伊勢内宮が完成するのは、持統三河行幸(大宝二年=七〇二)以降のことと考えられます。
    (2006/06/15 7:55 PM)

  5. 柴田晴廣 より:

    若干の訂正と補足
     先のコメントの末文の「皇祖神アマテラスを容れる器=伊勢内宮が完成するのは」は、「皇祖神アマテラスを容れる器としての伊勢内宮が完成するのは」が正確な表現でした。
     皇祖神アマテラスを容れる器自体は、上述のように七世紀末に完成しています。ただし、器は出来上がっていても容れるアマテラスは出来上がっていなかった。
     これが出来上がるのは、持統三河行幸以降という意味です。
    (2006/06/16 9:08 AM)

  6. トッピー@管理人 より:

    >柴田晴廣さま
    こんばんは。情報ありがとうございました。この週末は伊勢神宮と斎宮跡に行ってまいりましたので、またレポートしたいと思います。
    (2006/06/19 1:35 AM)

  7. 藤岡義久 より:

    東京で大学医学部講師をしております!高校まで名古屋で過ごした為、このブログはどれも興味津々で読んでいます。妻を一度伊勢神宮に連れて行きたくて存在を知りました。ナフコの話は、数が減ったな と名古屋へ行くたび感じてたので納得いたしました。これからも興味深い書き込みお願いします!最高ですよ!
    (2006/09/07 10:16 PM)

  8. トッピー@管理人 より:

    >藤岡義久さま
    はじめまして、こんばんは。ブログをお読みいただきありがとうございます。伊勢神宮のこの記事がきっかけになったとのことをお聞きして、神宮に参拝して良かったという思いが強くなりました。今後ともよろしくお願いします。
    (2006/09/08 9:17 PM)

  9. 藤岡義久 より:

    日本人なのに、日本史には無知で。お恥ずかしい話なのですが、大学受験でも選択しませんでしたし。伊勢神宮も、ただ訪れていただけでした。柴田さんTOPPYさんの記述を読んで、知識の深さに驚きました。今からでも遅くありません。しっかり勉強してから、伊勢神宮に限らず訪問したいと思います。
    (2006/09/09 12:42 AM)

  10. トッピー@管理人 より:

    >藤岡義久さま
    こんにちは。柴田さんは歴史にもお詳しい方ですが、私は全然そんなことありませんよ。私も大学受験の際には日本史を選択していませんし…。伊勢神宮の遷宮についても、参拝順路についても、私が知るきっかけになったのは、現地の方に聞いたのが最初ですし、やっぱり現地でガイドの方とかにいろいろ聞くのが面白いと思いますよ。
    (2006/09/12 11:25 AM)

  11. 下澤京太 より:

    はじめまして。季刊誌道の下澤と申します。
    奇しくも私もスヴェンさんを取材させて頂きました。
    もしよろしかったら、私の書いた記事もご覧になってください。
    http://www.aikinews.com/article.php?articleID=34
    ISE-Ancient yet new
    建築家 スヴェン・M・ヴァス
    という記事です。昨年から取材を開始し、
    遷宮の完了まで密着取材(の予定)です。
    よろしかったら是非ご覧下さい。
    2006年春-神宮式年遷宮を支える人と伝統
    http://www.aikinews.com/article.php?articleID=8
    2006年夏号-時を超えて伝える“おもい”―― 賓日館
    http://www.aikinews.com/article.php?articleID=21
    2006年秋号-神宮の森再生にかける
    http://www.aikinews.com/article.php?articleID=26
    もし、この書き込みが不適切でしたら、
    お手数ですが、削除お願いいたします。
    (2006/10/12 6:17 AM)

  12. トッピー@管理人 より:

    >下澤さま、はじめまして、こんばんは。
    遷宮の完了までずっと密着取材されるのですね。頑張ってください。式年遷宮はとても興味深いです。書店を覗いてみますね。
    (2006/10/16 3:48 AM)

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