
ホメロスが「イリアス」という詩に残したトロイ戦争。そこで使われた作戦が「トロイの木馬」なわけですが、この戦争は、女神のプライドをかけた戦いから発展した戦争とされています。女の戦いから略奪婚へ。その物語を紐解いてみます。

紀元前1200年頃、人間の子ペレウスとティターン族の娘テティスの結婚式が行われたのですが、不和の女神「エリス」はこの式に招待されませんでした。怒ったエリスが「いちばん美しい女神へ」と書いた黄金のリンゴを祝宴に投げ込んだことから騒動は始まります。

そのリンゴをめぐって、結婚式に出席していた、戦いの女神「アテナ」と、美の女神「アフロディーテ」、そしてゼウスの妻であった「ヘラ」が、「私こそが最も美しい女神である」と張り合うことになります。しかし、女神3人がそれぞれ言い張ったところで結果は出ません。そこでトロイ王家の王子で、独身だった「パリス」が公平な審判を下すことになります。

3人の女神はそれぞれパリスに「世界を支配する力」「戦いに勝利する力」など、賄賂を与えて気をひこうとするのですが、そのなかでアフロディーテは「私を選んでくれたら、絶世の美女ヘレナさんを紹介してあげましょう」と誘惑。パリスはその誘いに乗っかり、アフロディーテが最も美しい女神であると宣言し、アフロディーテはギリシアで最高の美女ということになりました。

パリスは約束どおり、絶世の美女へレナと結婚しようとするのですが、まさかの展開に。そう、ヘレナは人妻だったのです。しかもスパルタ王の王妃です。さらには子どももいました。しかしこれは約束だとして、パリスは略奪婚を成し遂げてしまいます。

怒ったのはスパルタ王です。兄のミケナイ王アガメムノンと一緒に、ギリシア軍は一丸となってトロイに攻め込みます。しかしトロイの城は頑丈で、10年攻撃し続けてもビクともしなかったのです。

そこで登場するのが「トロイの木馬」です。

ギリシア軍のオデュッセウスが、あるアイデアを思いつきます。大きな木馬を作ってそのなかに兵隊を隠しておいて、その木馬だけをトロイに残し、ギリシア軍の兵隊は皆引き上げたように見せかけるという作戦です。木馬のなかに兵隊を忍ばせ、さらに残りの兵は、海岸で待機することにしました。

10年間続いた攻撃が止み、ポツンと残された木馬。ギリシア軍が去ったと思い込んだトロイの人々は、勝利を祝います。しかし、ただ巨大な木馬が置かれていたのでは、あやしまれます。そこでギリシア軍はおとりにシノンをわざと残します。

当然、シノンは拷問にかけられますが、作戦通りのことを話します。

「木馬は戦いの女神アテナの怒りを鎮めるために作った」
「ギリシア軍は皆逃げていった」

そして、なぜ高さが13メートルもある巨大な木馬であるのかと問われると、

「この木馬がトロイの城内に入ると、ギリシア軍が負けると預言者が言っていたので、入らないように大きくした」

と答えます。それならと、トロイ人たちは木馬を城内に引き入れます。すると、木馬のなかに隠れていたギリシア軍は夜襲に成功。トロイ人はほとんどが殺され、生き残った人々はこの地を逃げ、ローマを作ったと伝えられています。

と、これが今から3200年も前のお話なわけですが、日本の神話と同じように、トルコ人もこれを真実だと受け止めているわけではなく、当時繰り返された領土を奪い合う戦争に、それなりのストーリーをホメロスが付け加えたものだと認識されています。

以前は全てが伝説で、事実とは思われていなかったトロイ戦争。しかし、シュリーマンによってその舞台の存在が発見され、神話が全て作り話というわけではないということが、証明されたのです。実在していた古代都市トロイ。ひょっとしたら、作り話だと思われている日本の神話やおとぎ話も、実話を象徴したものばかりなのかもしれませんね。