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妖怪が商店街活性化!どころじゃない!!-街の活性化の観点からの水木しげるロード

記事公開日:2008年10月24日 更新日:

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 さて、境港のレポートも3回目になります。今回は、観光客としての目線ではなく、街の活性化という視点で、水木しげるロードを見ていきたいと思います。

かつて境港といえば「おいしい海の幸!」というイメージが全面だったのですが、近年は妖怪の街として人気を集めており、特にここ最近は「ゲゲゲの鬼太郎」がテレビアニメ化や映画化されたことによる妖怪ブーム到来で、山陰の観光から境港を外すことはできないとまで言われるようになりました。

 しかし、かつて境港にも全国各地の商店街が抱えているものと同じ悩みがありました。境港に人が集まる理由、活気のある理由を、実際に妖怪の街が具現化されている「水木しげるロード」を歩きながら考えてみたいと思います。

民だけじゃない官だけでもない

「鬼太郎列車」や「ねこ娘列車」が運行されているJR境線、その終着駅である鬼太郎駅こと境港駅を降りると、そこは妖怪の街です。駅から東へ、全長800メートルに渡って続く商店街、「水木しげるロード」にその妖怪世界が繰り広げられています。

 駅を降りるとさっそく、水木しげる先生の仕事場を再現したブロンズ像や、郵政省(当時)が設置した、一反木綿に乗る鬼太郎の姿を乗せたポストなどが出迎えてくれます。そして交番も妖怪モード。鬼太郎交番には鬼太郎のパネルが。

 もちろんこの交番、本物です。境港警察署の境港駅前交番です。その外観だけで驚いてはいけません。30歳の女性巡査部長が「ねこ娘」の着ぐるみを着てパトロールに出ているというのですから、筋金入りです。

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なぜ鬼太郎なのか

 境港は漁業の町。かつては商店街も賑わっていたのですが、やはり全国の商店街がさらされている現状と同じように、大型店の進出や消費者ニーズの多様化により、昭和40年代をピークに次第に活気を失っていきました。

 商店街は活性化策を模索します。1989(H元)年から「緑と文化のまちづくり」をテーマとして、商店街に地元住民の足を向けさせるための方策について、境港市出身の著名人に対して提言を求めたのです。

 そこで出されたのが、境港市出身の漫画家である水木しげる先生の描く「ゲゲゲの鬼太郎」および妖怪の世界を具現化するというものでした。こうして、商店街を「水木しげるロード」とする構想がまとまっていったのです。

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皮肉な?知名度アップ

 1998(H5)年7月18日、鬼太郎やねずみ男といった妖怪ブロンズ像23体が設置され、水木しげるロードはオープンします。その後40体、80体と増やしていき、1996(H8)年8月24日には全長800メートルの「水木しげるロード完成記念式典」が開かれるに至ります。このような節目の式典には先生も参加しています。

 当初、地元住民を商店街に集客するためにスタートしたこの構想でしたが、一躍全国区への道を歩むことになる事件が発生するのです。

 それは、妖怪ブロンズ像の盗難です。妖怪の像が盗まれ、それが全国に報道されたのです。逆にそれをきっかけに全国に「水木しげるロード」の存在が知れ渡り、観光客がどっと押し寄せるようになったのです。

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散策の動機付け

 商店街の活性化を狙い、あちこちに妖怪のブロンズ像をたくさん設置するという作戦は見事です。なぜなら、全てを見るために商店街をウロウロしないといけないですからね。でも、それだけでは完全ではありません。お目当てのブロンズ像だけを見てしまえば、満足して帰ってしまう人もいるでしょう。

 そこで、妖怪ブロンズ像のうち36体にスタンプ台を設け、そのスタンプを全て押すことで「妖怪スタンプラリー完走証」を渡すスタンプラリーを行っているのです。

 これが、お子さまはもちろんのこと、やるからにはやっぱり「完走証」が欲しくなってしまうという、大人のコレクター心にも火をつけ、効果をあげています。しかも、スタンプの図柄もそれぞれとってもカワイイ。

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世界観の統一

 商店街のあちこちにブロンズ像を置き、スタンプラリーを実施したとしても、ただそれだけでは道と商店街の一体感が出ません。さらに水木しげるロードのすごいところは、商店街に立ち並ぶお店も妖怪チックなのです。

 おみやげ屋さんには鬼太郎グッズがずらり並び、郵便局でハガキを送れば、鬼太郎の消印を押してくれます。ところが、それだけにはとどまりません。

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 まんじゅう屋さんで販売されているのは、鬼太郎や目玉のおやじといった姿の人形焼「妖怪饅頭」。おみやげにぴったりです。

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 でも、そんなのおみやげ屋さんだけでしょ?と思ったら大間違い。洋品店の店先には「一反木綿」がそよぎ、そこには鬼太郎や目玉のおやじが乗っています。

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 さらには、はきもの屋さんもここでは運動靴やハイヒールなどではなく、鬼太郎の履いているゲタがメイン商品。

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 喫茶店の店先にも、酒屋さんにも、写真屋さんにも、どこにも妖怪がいるのです。

 もはやこの商店街は、妖怪で活性化している商店街なのではなく、妖怪の世界のなかにある商店街なのです。

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実際の効果

 その後、水木しげるロードの最も奥に「水木しげる記念館」が2003(H15)年にオープンし、様々なタイアップイベントも開催されるようになりました。

 ブロンズ像を設置した翌年、1994(H6)年の来客数は28万人。この時点で前年の10倍以上。それが2005(H17)年には85万人を越え、2007(H19)年、ゲゲゲの鬼太郎のテレビアニメ新シリーズが放送されるようになると、なんと年間147万人が訪れたのです。

 いまや、鳥取県で最もメジャーな観光地であるといっても過言ではありません。

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一体何が成功へと導いたのか

 全国各地で同じように悩んでいる商店街は無数にあります。この水木しげるロードは、商店街活性事例のなかで最高の成功事例といえるのではないでしょうか。しかしここには、ドーンと大きな妖怪テーマパークがあるわけでもありませんし、子どもたちを喜ばせるような仕掛けがあるわけではありません。

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 あくまでも、商店街そのものが妖怪チックになっているだけです。でもそれが逆に、相乗効果を出しているのではないでしょうか。

 そもそも妖怪とは、他のキャラクターたちとは一線を画しています。ただカワイイだけでなく、一過性の存在でもありません。

 古来から、日本人の心のどこかで感じている八百万の神に通ずるものがあり、幼い頃、妖怪は完全な架空の存在ではなく、実は身近に存在しているのではないかと感じている部分もあって...。

 きっと、この水木しげるロードで妖怪たちのブロンズ像に触れることによって、大人たちは望郷の念に似たような、郷愁を感じることができるのではないでしょうか。

 なおかつそれが、人工的なテーマパークにあるのではなく、自分たちが幼い頃に小銭を握り締めて走り回ったあの頃の商店街に似た雰囲気のなかにあるからこそ、特別な感情を抱けるのだと、私は思いました。

 境港は妖怪が商店街を救ってくれました。あなたの町の商店街を救ってくれる存在も、実は意外と身近なところにあるのかもしれません。

関連情報

水木しげるロード(境港市観光協会)

水木しげるロード(鳥取・境港市)MAP

水木しげるロード


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