NAGOYANOW NOWレポート

線路から道路そして未来へ..JR北海道が開発したDMVの実証実験-明知鉄道

記事公開日:2010年3月22日

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★線路と道路を行ったり来たり
★JR北海道と明知鉄道・観光と鉄道
★ハプニング発生で問題点も露呈まさに実証

 JR北海道が開発した「DMV(デュアル・モード・ビークル)」の車両を使って、岐阜県の明知鉄道で実証実験が行われるということで、見てきました。DMVとは、見た目はマイクロバスなのですが、なんとそのまま、線路に進入してタイヤと鉄輪で走行できてしまうのです。

 少子高齢化、過疎化の進行によって地方交通の運営が難しくなっている環境のなかで、バスと鉄道が競合して、共倒れになっては元も子もありませんし、バスをそのまま線路に乗り入れさせることで、コストをかけずに、通学・通院・買い物そして観光のシームレス化が実現できる...と、そんな理想の下、北海道、静岡、熊本でデモンストレーションや実証運行が行われ、2007(H19)年と2008(H20)年にはJR釧網線にて試験的営業運行が行われました。

 そして今回、岐阜県の明知鉄道での実証実験となりました。実は、明知鉄道にやってきたのには、大きな意味があったのです。

4ヶ月ぶりのお目見え

 JR北海道のDMV車両「DMV921(愛称Darwin)」。この車両が明知鉄道にやってきたのは、実は初めてではありません。2009(H21)年11月、3日間に渡って夜間に14回の試験走行を実施して、明知鉄道での走行に安全上の問題がないことを確認した上で、今回の実証実験となったのです。

 私たちは当日、発車式が行われる予定の明知鉄道・岩村駅へと、日本三大山城の一つと言われる、女城主で知られる岩村城の城下町を早朝歩いていますと...。

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 後ろから、マイクロバスが近づいてくるような音がして、振り向いてビックリ。なんと、JR北海道のDMVが走ってくるではありませんか。このDMVは、トヨタのマイクロバス「コースター」をベースに作られているため、見た目は全くのマイクロバスです。

 まさか、このマイクロバスの状態でずっと走ってきた...なんてことはありません。今回は北海道から船で敦賀港へと運ばれ、そこからトレーラーで明知鉄道本社へと前日に到着。そしてこの当日の朝に、岩村駅へと道路を走行してやってきたのです。

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まずは発車式です

 バスがそのまま線路へと進入する新しい交通「DMV」。もちろん、マスコミも注目しており、新聞社のほかNHKやCBC、さらに地元のケーブルテレビなど報道陣がたくさん詰め掛けていました。私もインタビューに答えたのですけど、どこのテレビ局か聞くのを忘れてしまいました。ぎふチャンかな?

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 発車式には、意外と背が高いことで有名な「2012ぎふ清流国体」のキャラクター「ミナモ」と、昨年9月にこの明知鉄道の観光大使に任命された、鉄道アーティスト・小倉沙耶さんもかけつけ、DMVの前でポーズを決めてくれました。

 肩書きって大切ですね。私は小倉さんのことをそれまで存じ上げなかったのですけれども、「鉄道アーティストです」と言われれば、何となくですが、「そうなんだ」って思いますものね。やっぱり今は端的に物事を表現する時代ですから、肩書きに自分を象徴する言葉を凝縮する重要性を再認識できました。

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 それはさておき、発車式では、恵那市長、JR北海道の副社長、国土交通省の偉い人、岐阜県の課長が挨拶をしたのですが、式の冒頭、司会を務めていた恵那市の職員の方が「発車の時間もありますので、ご配慮をお願いします」と、暗に「長話するなよ」と牽制してくれたお陰で、ほぼ予定通りな感じで式は進行していきました。

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 式典の最後には、出席者の名前読み上げがあったのですが、そのなかで、どうも中津川市長の扱いが微妙だったのが印象的でした。座っていた位置も微妙でしたし、紹介順もこれまた微妙。

 明知鉄道は確かに、飯沼、阿木と2駅が中津川市内にあるわけですけれども、両端といいますか、大部分が恵那市内ですし、平成の大合併によって広大になった中津川市から見ると、明知鉄道はほんの少しをかすめているだけで、どう見ても「まあ一応参加してます感」は否めませんでした...。

 そんな雰囲気の式典は、出発のテープカットで華々しく出発進行!と言いたいところですが、DMVはまずは駅の裏側へ...なぜなら...。

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本当はスムーズなはずのモードチェンジ!

 テープカットの出発式のあと、「それでは皆さん駅の裏側へ」という案内に従って、岩村駅の裏側へ...。

 なぜいきなり駅の裏側なのかといいますと、実はそこに道路から線路へとモードチェンジを行う「ガイドウェイ」があるのです。DMVもぐるりと駅を回って、駅の裏側へとやってきました。

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 ここで、DMVは道路走行から線路走行へと「モードチェンジ」を行います。所要時間は10~15秒とスムーズ!という触れ込みだったのですが、乗車する人をモードチェンジ前に乗せるのか、後に乗せるのかの段取りで手間取ってしまい、残念ながら見た目にはスムーズ感は伝わってきませんでした。

 もちろん運転士も、ここまでは東鉄バスの方でしたが、ここからは明知鉄道の方に交代です。

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 DMVは、道路を走る祭は普通にマイクロバスとしてゴムタイヤで走行しますが、線路を走行する際には、前後に鉄輪を出した上で、少しウイリー状態となり、後ろのゴムタイヤで駆動して走ることになります。

 乗った方に、線路上での乗り心地の感想を聞きましたところ、少し硬いとのことでした。道路上の乗り心地については...まあ、普通にマイクロバスの乗り心地でしょうから、あえてそれは聞きませんでした。

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 線路から道路にモードチェンジをする際には、運転手が交代するだけで簡単にそのまま走行できるのですが、逆に道路から線路に進入する際には、位置合わせのガイドウェイが必要となります。

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 このDMVの利点は、何と言っても低コストであるということです。このガイドウェイさえ整備すれば、既存の線路と道路をそのまま行ったり来たりできますし、燃費もキハ40系の1.4km/Lに比べて、DMVは7.5km/Lと良く、購入費や保守費も低く抑えられます。

 専用路と道路と両方通行できる公共交通といいますと、2005(H17)年の愛・地球博で会場内輸送として使われた「IMTS(Intelligent Multimode Transit System)」を思い浮かべますが、あちらは専用路で無人走行ができる利点があるものの、新たにインフラ整備を行わなくてはならないという一方で、DMVは既存の線路を、普通のマイクロバスに少し改造を加えた車両で走れるということで、やはり導入のしやすさでは比べ物になりません。

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町の人たちも注目

 今回の実証実験は、3月20日から22日の3日間に渡って行われたのですが、初日から町の人たちも注目している様子でした。

 もちろん、見た目はマイクロバスでも、ちゃんと踏切の警報機は鳴るのですが、明知鉄道には遮断機や警報機の無い踏切もあり、そういったところでは、普段の鉄道車両とは違って、バスが走ってくることから、気づかずに衝突事故などが起きてしまう可能性も考慮して、全ての踏切に係員が配置されていました。

 そして、いざDMVがやってくる時間になると、町の人たちも「なんか今日はかわいいのが走ってくるよ」ですとか「黄色いバスが走るんでしょ?」と私たちに話し掛けてくれ、明知鉄道の線路を注目していました。

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 明知鉄道も、苦しい過疎の鉄道会社のひとつではありますが、普段から観光列車を走らせたり、駅を新設する際には大々的にPRをして、注目を集める活動を行っています。もちろんこのDMVに関しても、メディアはもちろん、地元の方々にも周知を徹底的に行ったのでしょうね。

 当然地元向けには、PRと安全確保の両面があるのでしょうけれども。

 そういえば余談ですが、この時期は明知鉄道といいますと「じねんじょ列車」も人気なのですが、以前、そのじねんじょ列車が衝突事故を起こしてしまい、配膳の方がじねんじょまみれになってしまった...なんてこともありましたね。それはそれは痒かったでしょうね...。

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明知鉄道がふさわしかった理由

 さてDMVは、岩村駅から明智駅へと線路を走るわけですが、ここにまず、明知鉄道で実証実験を行うにふさわしい理由のひとつがあります。それは、明知鉄道は山間部の斜面を走る鉄道であり、この岩村-明智間ではありませんが、33‰という日本一の勾配の駅として知られる飯沼駅があります。そして今回走行する岩村-明智間にも、それに準ずる32‰の坂があり、そこを今回走行することが、実験のひとつとなっています。

 そしてもうひとつの理由は、駅から歩いて行くには遠いけれども、バスを使えば比較的行きやすいところに、観光地が点在しているという点です。

 鉄道と徒歩という組み合わせでは、観光するのに難しいけれども、鉄道がそのままバスとなって観光地まで行ってくれたら...という、DMVの利点を最大限に生かすことが出来る環境での実証実験となりました。

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 それを実証する実験ですから、当然観光要素も運行内容に含まれていました。

 1日4便の実験走行のうち、8:50発の1便と、16:30発の4便は体験ルートということで、岩村駅から明智駅へと線路を走行して、そのまま道路を岩村駅まで戻る設定なっていたのですが、2便と3便は、実際に観光地をまわって、観光ルートとして運行を行ったのです。

 10:35発の2便は、岩村駅からまず道路を走って10分、岩村歴史資料館へ。そこで15分の観光をします。

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 そして岩村駅へと戻ってモードチェンジ。今度は線路を走って明智駅へ。明智といえば、大正時代の街並みをそのままそっくり保存した日本大正村があります。そこを走り抜けて、車窓からレトロを楽しもうというわけです。

 端から見ると、大正時代の古きよき町並みのなかを、進化という名の最新のDMVが走っていくという、なんとも象徴的な風景となりました。

 大正村を抜けた2便は、岩村駅に12:20分に着となりました。

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 続いて、13:20発の3便が面白い。岩村駅からまずは線路で明智駅へと向かい、そのまま大正村を車窓から見物して、次に向かったのが「道の駅・おばあちゃん市・山岡」です。

 そう、線路と道路の両方を走れるからこそ出来る技。「駅」の次に停まるのが「道の駅」なのです。これこそDMVを象徴する運行です。

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地方の公共交通が生き残るには

 このようにして、明知鉄道での実証実験は行われました。

 JR北海道の副社長の挨拶にあったのですが、このDMVになぜ「Darwin」と名付けられたのかといいますと、それは種の「進化」こそが生き残りの手段であるという、ダーウィンの進化論に交通をなぞらえたからだそうです。

 長い生物の歴史のなかで、生き残ったのは優秀な種ではなく、進化した種だったと。だからこそ、今、苦境に立たされている地方の交通も進化しなくては生き残れない...と。

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 明知鉄道がこのDMVに懸ける思いは大きなものがあります。もちろん、買い物や病院への通院、そして高校の通学などで、DMVが線路からそのまま目的地まで一気に運行してくれたら、住民の方にとっても便利なものになるでしょうが、それがたとえ充実したとしても、大きく少子高齢化、過疎化が進む中で、沿線人口の減少は食い止めることが出来ません。

 しかし、観光資源を生かし、その移動手段もパビリオン的な要素として、このDMVを導入すれば、この明知鉄道沿線の観光地をシームレスに周ることが出来る上に、さらに、DMVに乗ることが出来るという魅力を加えて、なおかつそれが日本初のDMVの本格的営業運転となれば、観光を目的とした利用客は増大する可能性があります。

 あ、いや、でもやっぱり、そこはJR北海道が開発したものですし、日本初じゃなくて、本州初くらいに遠慮は必要かな...。

実際に導入するにあたっての課題

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 今回の実証実験では、ひとつハプニングが起きました。それはこの初日の1便が、軽自動車が横転した交通事故の渋滞に巻き込まれたのです。といっても、それほどの遅れにはならなかったのが幸いでしたけれども。

 鉄道にももちろん接触事故などが起きる可能性はありますが、DMVがバスとして運行している際に、渋滞や事故に巻き込まれ、ダイヤが乱れる可能性というのは、鉄道の比ではありません。

 鉄道と線路を共有するということは、そんなダイヤの乱れる可能性のあるバスと、鉄道が線路を共有するという点で、運用には工夫が必要であるということも、今回の実証実験で露呈した形となりました。まさか、それを実証するために、あの軽自動車を意図的に横転させたとか...いやいや、それはない。

 かなり昔の話になりますが、上岡龍太郎氏がテレビで国鉄分割民営化について、こんなことを言っていたことを記憶しています。

「そもそも地方の私鉄を国が買い上げたのが国鉄であり、その際国は、国鉄は国民の足として将来は無料にすると約束したはずだ。なのに赤字だからといって分割民営化とはおかしい。そんなことを言うなら、警察も消防も赤字だからと分割民営化すればよい。(要約)」

 今、地方の公共交通はバスも鉄道も苦しい経営を強いられています、その割りに、高速道路は「命の道」だからと、政権交代が起こっても必要性が説かれ、建設が進み、こちらは本当に、一部ですが無料化が実現しようとしています。

 高速道路を使う人と、鉄道・バスといった公共交通を使う人、本当の交通弱者はどちらなのか...。

 生まれ育った場所で一生を暮らしたい。それが今、だんだんと難しくなっていることを、ひしひしと感じます。

 そんな環境のなかで、地元の人の足を守るために、話題性を作って、注目を集め、外から人を呼び込むことで生き残りを懸ける明知鉄道。頑張れ。

関連情報

明知鉄道
DMV | デュアル・モード・ビークル(JR北海道)

取材協力

公共交通利用促進ネットワーク

岩村駅(岐阜・恵那市)

岩村駅

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