おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 第5章 名古屋の言葉

ほかっとけって言ったじゃないですか

記事公開日:2004年11月27日

おいでよ!名古屋みゃーみゃー通信 第49回

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 学生時代はずっと名古屋で過ごし、社会に出る際に初めて名古屋を離れる人や、結婚で名古屋を離れる人、名古屋で就職してもその後の転勤によって名古屋を離れる人など、大人になって初めて名古屋を出るという人もたくさんいます。

社会に出て初めて気づく名古屋弁

 その場合は前回お話したようなことで、言葉によっていじめに遭うだとか馬鹿にされるようなことは少なくなりますが、やはり名古屋っ子は名古屋弁をあまり使わなくなります。また、子どもとは違い言葉のすれ違いによって大きな失敗に繋がることもあります。今回も具体的な事例をもとに名古屋っ子が普段いかに名古屋弁と意識せずに名古屋弁を使っているかを検証していきます。

<名古屋から東京に就職した新卒者の場合>

1.かったーしゃつ

東京の上司や先輩 「社会人になるといろいろ物入りだろう。」
新人の名古屋っ子 「そうですね。カッターシャツもたくさん買った。てな感じで...。」
東京の上司や先輩 「ウチの会社はワイシャツじゃないとだめだよ。」
新人の名古屋っ子 「...。カッターシャツとワイシャツって違うんですか?」

 カッターシャツという言葉はワイシャツと同義語として名古屋だけでなく広く西日本で使われていますが、東日本では別物として使われることがあります。ワイシャツは元々「ホワイトシャツ」が略されたもので、背広の下に着る白いシャツを指します。最近では白以外のものもワイシャツと呼ぶようになりましたが、どちらかというと地味な印象があります。

 対するカッターシャツはスポーツ用のシャツとして「勝ったーシャツ」と名付けられたもので、休日に着るシャツを指すことが多いのですが、基本的には東日本でカッターシャツという言葉は使用されません。ですのでこの例のようなダジャレは、寒いどころか理解してもらえません。

2.ごぶれいします

東京の上司や先輩 「今日は一日目だし、定時前だけど帰っていいよ。」
新人の名古屋っ子 「わかりました。それではお先にご無礼します。」
東京の上司や先輩 「君は武士か。」

 名古屋では「失礼します」の代わりに「ご無礼します」という言葉が日常的に使われています。これはやはり、秀吉、信長、家康という三英傑を生んだ名古屋だからでしょう。ちなみに「失礼」と「無礼」は同じ意味ではなく、無礼は目上の人に対してしか使えない言葉です。名古屋っ子は「ご無礼します」と言うことで知らず知らずのうちに相手をヨイショをしているつもりなのかもしれませんが、特に新入社員の女の子がいきなり「ご無礼します」と言ったら東京では驚かれます。

 逆に名古屋で「お先に失礼します」と言っても特に問題は無く、「この無礼者がー!」などと言われることはありませんのでご心配なく。ただ何も言わずに帰ると「たーけか」と怒られます。

3.おかねをこわす、かぎをかう

 新人の名古屋っ子は、東京出身の同僚にコンパに誘われました。その道中の会話です。

新人の名古屋っ子 「今日はコンパに誘ってくれてありがとう。」
生粋東京人の同僚 「東京に出てきたばかりで寂しそうだったからさ。」
新人の名古屋っ子 「ちゃんとお金もこわして来たしバッチリ。」
生粋東京人の同僚 「お金をこわす?100円玉を割る手品でもする気?」
新人の名古屋っ子 「違うよ。割り勘がすぐできるように細かくしてきたの。」
生粋東京人の同僚 「(両替のことか)いやいや、女の子にお金は払わせないよ。」
新人の名古屋っ子 「え!おごらないかんの?あ、鍵かってくるの忘れたかも。」
生粋東京人の同僚 「家の鍵新しくするの?忘れたかもってカバン見ればわかるだろ?」
新人の名古屋っ子 「鍵をかったかどうかなんて、家に帰らなきゃわからないよ。」
生粋東京人の同僚 「通販で買ったの?」

 全く会話がかみ合っていませんね。まずは「お金をこわす」について。名古屋では細かい単位のお金に両替することを、お金をこわすと言います。決して硬貨を割ったりお札を破ったりするわけではありません。そして名古屋っ子は常に割り勘というのが当たり前なので、コンパでもおごる気は全くありません。

 そして「鍵をかう」は買うことではなく、鍵をかけることです。名古屋っ子は毎日鍵をかうので、話だけ聞いていると余程心配性で鍵を付け替えているように思われがちですが、そうではありません。またボタンをかけることもかうと言います。ですので名古屋っ子が「ちょっと背中のボタンかってよ」と言っても、決して売りつけているわけではありません。

4.えらい、さかしま

 新人の名古屋っ子が書類作成を上司や先輩に頼まれ提出したものの、注意力が散漫になっていたのか向きがバラバラになってしまっていて注意を受けました。

東京の上司や先輩 「なんだこの書類の止め方は。向きがバラバラじゃないか。」
新人の名古屋っ子 「すみません。ちょっと今日私えらくてボーっとしていてさかしまにな
ってしまいました。」
東京の上司や先輩 「何が偉いんだ。新入社員のくせに。それにさ・か・さ・ま!」

「私えらくて」これは全く意味が通じません。名古屋では「疲れている」と「だるい」の両方の状態であることを「えらい」と言います。決して自分を誇示しているわけではありません。しかし、偉いという意味でも使い、目上の人のことを「えらいさま」と言ったりしますので言い方で使い分けします。最上級は「えりゃあ」です。

「さかしま」は実は名古屋弁ではなくて標準語なのですが古い表現で、ご無礼しますと同様に古い言葉が名古屋ではそのまま残っている状態です。元はさかしまが変化してさかさまになったのです。「さかしま」を「さかさま」に直させることがさかしまです。

5.ほかる

東京の上司や先輩 「おい、この机の上にあった書類はどうした?」
新人の名古屋っ子 「捨てましたよ。」
東京の上司や先輩 「捨てた?ほかっとけって言ったじゃないか。」
新人の名古屋っ子 「だからほかったんじゃないですか。何がいけないんですか。」
東京の上司や先輩 「もういい。」

「ほかる」は標準語に無い言葉ですが、捨てるという意味で使われている地域は名古屋だけです。「ほかっとけ」を「そのままにしておいて」という意味で使う地域が東日本には多いので、名古屋っ子はこういった失敗をしてしまうことが多々あります。以上の様な言葉のすれ違いを連発すれば、名古屋っ子は東京の会社からほかられます。

 会社の場合は、失敗してもいざとなれば転職してしまえばいいので取り返しがつきますが、それが簡単にできないのが嫁ぎ先での失敗です。名古屋の女の子が東京に嫁いだ事例を見てみましょう。

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▲「勝ったーシャツ」を名付けたミズノは大阪で創業しています。言葉の分布にもそれが影響しているようです。

<名古屋から東京に嫁いだお嫁さんの場合>

1.ちんちん、ちんちこちん

嫁ぎ先の姑 「みゃー子さん。お風呂をお願いしておきましたよね。」
名古屋の嫁 「あ、はい。でもちんちんだったので今、水で埋めてます。ちんちこちんとい
う程でもないので、すぐに入れると思いますよ。」
嫁ぎ先の姑 「...。(欲求不満なのかしら、この子)」

 名古屋では熱いことを「ちんちん」と言います。ちんちんが比較級だとすると最上級は「ちんちこちん」です。発音は「チンチン」とは違い「ちんちん」は平坦に、そして「ちんちこちん」は「こ」にアクセントがつき、きんきらきんと同じイントネーションになります。

 ですので、名古屋の飲食店でとびきり熱いお茶が出ると、若い女性が「うわ、ちんちん!」と言うことがありますが、決してあなたのチャックが開いているわけではないので、ドキっとしなくても大丈夫です。

2.からい

名古屋の嫁 「お義母さんって、味付け濃いですよね。これ、からいです。」
嫁ぎ先の姑 「そんな、からいわけないわよ。刺激の強いもの入れていないもの。」
名古屋の嫁 「そうかなあ。塩味濃いですよ。」
嫁ぎ先の姑 「確かにしょっぱいかもしれないけど、からいなんてことはないの。」

 これも名古屋だけでなく関西でも同様だそうですが、名古屋ではしょっぱいのも、味が濃いのも、刺激の強い味も全て「からい」の一言です。最上級は「でらかれー」です。料理の味付けは、嫁と姑の関係に大きく影響する事柄ですので特に気をつけたいところです。姑さんの作った料理の評価は甘めに。

3.なぶる

 みかんを手の上で転がしている姑を見て一言。

名古屋の嫁 「お義母さん、あんまりなぶらないでくださいよ。」
嫁ぎ先の姑 「私がいつあなたをいじめたというの!変な言い方しないで!」

 名古屋では手でかまったりすることを「なぶる」と言いますが、標準語、関西弁ともに「なぶる」は、弱いものいじめ、からかう、馬鹿にする、もてあそぶという意味になりますので使わない方が無難です。また、いやらしい意味にもとれますので「昨日はパソコンなぶりすぎて手が痛い」と言うと、パソコンをしながら何をやっていたのかと勘繰られてしまいます。

4.米をかす

名古屋の嫁 「お義母さん。お米かしましょうか。」
嫁ぎ先の姑 「お米に困るような生活していません!」

 お米を研ぐことを、名古屋ではお米をかすと言います。貸し借りをするわけでもありませんし、残りかすのことでもありません。「浸す」と書いてかすと読むのです。

方言だと知った上で使いこなそう

 さて、2回に渡り名古屋っ子が標準語だと思い込んでいる名古屋弁を特集してきました。特に大人になってからは自分の言葉に責任が生じるので、このような失敗をしてしまうことになりかねません。

 こうして失敗を繰り返しそれがトラウマとなり、子どもも大人も名古屋っ子は上京すると、どれが名古屋弁でどれがそうでないのかわからなくなり、名古屋にいた時に使っていた言葉全てが使えなくなり、東京の人が話している言葉にあわせるようになってしまうのでしょう。イントネーションさえもです。

 方言は文化として大切ですし、名古屋弁が全国に通用する言葉になってほしいという願いは私も持っていますが、方言が方言であるという認識をもった上でうまく使いこなすことが重要なのです。でないと、名古屋でしか生きていけない人間になってしまいます。

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