トッピーの放送見聞録

報道記者から転身・日本とバングラデシュのコミュニティFMラジオ局を結ぶ架け橋に

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★地域のための放送局FMらら(岐阜)で放送されている海外レポートの意味
★テレビ局の報道記者から転身・2年間バングラデシュへ
★途上国の放送の支援を通して何ができるのか・地域のための放送の役割とは

 岐阜県の中濃地区をエリアとする、地域のためのコミュニティFMラジオ局「FMらら」で、月に2回、木曜の夕方に放送されている「えりちゃんのバングラポチョンドコリ」。このコーナーは、日本人がなかなか知ることができない、バングラデシュの事情を現地から伝えるものです。

 コミュニティFMラジオ局とは本来、地域に密着した情報を伝えるメディアです。その地域メディアがなぜ、海外からのレポートを定期的に放送しているのでしょうか。そこには「放送に何ができるのか」という大きなテーマに真正面から向き合い、人生を懸けて、放送を通して「自分に何ができるのか」を問いかけ続けている元報道記者の姿がありました。

1月8日 FMらら Aスタジオ「くみちょうLive!サウンドHITマン」

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一時帰国してFMららのスタジオに登場

 いつもはバングラデシュからFMららに定期的にレポートを届けている、えりちゃんこと安藤恵理子さんが1月、岐阜県可児市のFMららAスタジオにやってきました。一時帰国の合間に、生放送番組「サウンドHITマン!くみちょうLive」にて現地の様子を伝えるためです。

 この番組は、トランペッターのくみちょうをはじめ、この地方で活躍する地元ミュージシャンによるトークバラエティで、この日はくみちょう、ともぴょん、古屋さんの担当。安藤さんをゲストに迎え、時には面白く、時には真面目に、バングラデシュでの1年間に渡る活動について、2時間に渡り興味深いトークが繰り広げられました。

一時帰国した安藤さんが FMららのスタジオに登場

バングラデシュってどんなところ?

 バングラデシュは、インドの東側にある人口1億5千万人、約9割がイスラム教徒、色違いの日の丸という日本に似た国旗を持つ国です。公用語はベンガル語で、首都はダッカ。安藤さんが活動しているのは、その首都ダッカから320キロ離れたチャパイナワブゴンジ県。車はたくさん走っており、中央分離帯が無いためにバスの追い抜き事故も多いといったこともある一方で、車よりもバイクよりも多い庶民の足が「リキシャ」。これは三輪の自転車タクシーで、お客さんは後ろのカゴに乗せてもらうものです。

乗るだけでなくリキシャを漕がせてもらっている安藤さん

 チャパイナワブゴンジ県を流れるモハナンダ川は、現地の人のお風呂代わりとなっています。そう聞くと、すごいところを想像されてしまうかもしれませんが、安藤さんが住んでいるのは、クーラーのある部屋で、wi-fiが飛んでいて、インターネットは普通に使うことができ、テレビは70ものチャンネルがあります。ただ、宗教の違いもあり、テレビドラマではあまりラブシーンを見かけることも無く、女性はストールをいつもしなければならず、また、足を見せることはほとんどありません。

 そのため、「日本の曲ってどんなの?」と現地の男性の方に聞かれた際に、日本のAKB48の動画を見せたところ、露出は全然高くないものにもかかわらず、足首が見えていたことで、申し訳無さそうに目を反らされてしまったとのことです。

地元の方のお風呂代わりになっているモハナンダ川

 テレビでは日本の番組も放送されており、特にアニメ、ドラえもんやキテレツ大百科などは知名度も高く人気もあるのだとか。安藤さんがこの地にやってきたのは昨年3月。4月から5月にかけて気温は45℃に達し、その陽射しによってホクロができてしまうほど。その季節を乗り越えると、特産品であるマンゴーの季節。チャパイナワブゴンジ県は、バングラデシュで一番のマンゴーの産地で、一緒に働いている同僚がたくさんマンゴーをくれるほど豊作で、これがまた甘くてとてもおいしいのだそうです。

マンゴーの市場価格は1つ約40円 1キロ超の大物は約100円

 マンゴーは一部は他の都市に行くものもありますが、ほとんどが首都のダッカに出荷され、その収穫の収入のみで賄っている人が多く、それ以外の時期はほとんど働きません。首都に比べると、買えるものも少ないのですが、布が安く、すごくカラフルで服はみんなオーダーメイド。イスラム教徒が多いために豚肉は売られておらず、もちろんハムも無く、豚肉が無いことは想像以上に大変。そしてお酒。イスラム教徒ではない安藤さんがお酒を飲むことに問題は無いのですが、同僚や仲間とお酒を飲む機会が無く、打ち上げも無いことが、一番物足りないそうです。

 鍵が3つ付いているコンクリートの建物に住んでいるものの、夜は10℃くらいまで気温が下がることもあり、ストーブも毛布も無い状態での10℃というのも堪えます。周囲には建物の壁に牛の糞が貼ってあったりと、やはり、途上国であることを実感。ちなみにその牛の糞は、乾燥後に燃料として使ったり、なんと売られたりもします。

 おせっかいで、心配性で、距離が近いバングラデシュの方に、食べ物のことを特に心配され、ごちそうをされることも多いのですが、「川魚のカレー」「牛のカレー」「ヤギのカレー」と、カレーが大好き。カレーはやや辛めながらもおいしいのですが、とにかくお腹がいっぱいになるまで食べさせてくれるので、嬉しいやら苦しいやら...。距離が近いとはどういうことかと言いますと、人と人との間の距離のことで、その距離が日本人の半分くらいの感覚なので、会話の際に、思わずドキッとしてしまうくらいまで、顔を近づけられたりするのですが、他意はありま...いや、あったり、なかったり...。

マンゴーが大切な収入源 もちろん甘くておいしい!

何のためにバングラデシュに?

 安藤さんは、独立行政法人国際協力機構(JICA)のボランティア、青年海外協力隊員として2年間、この地にあるコミュニティFMラジオ局の支援のためにやってきています。しかも、前任者がいるわけでもなく、何を協力するのか、何を支援するのか、すべてを自分で生み出していかなければならないゼロからのスタート。最初はまったくの手探り、しかも、ベンガル語が難しく、何もできずに焦る日も多かったそうです。

 北海道のテレビ局で、報道記者としてディレクターとして活躍されていた安藤さんが、なぜバングラデシュにやってきたのか。それは、東日本大震災で目の当たりにした「現場」だったそうです。系列を挙げての取材、目の前に広がる問題。いかにしてそれを伝えるか。その際、実際にそこに暮らす地域の人の気持ちになって考える、地域を理解する力がまだ足りないのではないか。その力を身につけるためには、もっと、たくさんの見たこともない、想像したこともない「現場」を見て、文化を理解する能力を養う必要があるのではないか...。

 過去にも、学生時代にはメキシコでもボランティア活動に従事したことのある安藤さんは、そんな思いの中で、放送局の経験を活かすことができる、「コミュニティFM放送の支援」という青年海外協力隊員の募集を見つけ、テレビ局を飛び出してやってきたのです。勤務しているのは、チャパイナワブゴンジ県の半分程度のエリアをカバーしている「ラジオモハナンダ(Radio MAHANANDA 98.8MHz)」。

ラジオモハナンダの外観・NGOの建物にあります

日本と異なる部分もあるコミュニティFMラジオの役割

 ラジオモハナンダは、毎日午後3時から深夜1時まで放送を行っており、ほとんどを自局製作の番組とその再放送で編成。番組内容はバラエティーに富んでいて、地元のミュージシャンによる番組や、ドラマ、よくしゃべる学生パーソナリティの番組、そしてニュースなどがあり、地元リスナーからのお便りもかなり多いとのこと。バングラデシュ国内には現在、14局の同様のコミュニティFMラジオ局があり、連携する形になってはいるそうです。

 ただ、日本と大きく環境が異なっているのは、この地域で「ラジオモハナンダ」以外の放送は全て、テレビもラジオも全国規模の放送であり、地域の情報を流すのはこのラジオ局しかないこと。しかも、まだ開局して日が浅く、ほんの少し前まで、地元の情報を手に入れる手段というものが全く無かったことになります。

 さらに、識字率が半分程度と低く、文字の読めない人が多いため、いくらインターネットがあっても、音声でしか情報を得られない人々がたくさんいるという事情もあります。娯楽も少ないことから、街の人々はポエムを読むことが最大の娯楽で、記念日や誕生日には必ず詩で盛り上がるという風習があり、地域のラジオという存在は、その部分とも親和性が高いといえます。

 また、情報が伝わらないことから発生している、実際には18歳からしか結婚できないにもかかわらず、13歳で結婚させられるといった早期結婚の問題や、病気の予防、災害対策、食べる前には手を洗いましょうといった基本的な衛生面の啓発、健康の問題、農業技術についてなど、情報がちゃんと伝わることで、人々がもっと幸せに暮らせるようになる、その幸せを作る一端を担っているのが、コミュニティFMラジオ局なのです。

 日本と大きく異なるのは、このコミュニティFMラジオを通してしか、情報が伝わらない人がたくさんいるということです。

ラジオモハナンダでの収録の様子 右はナレーターのアブル・カラームさん

安藤さんの役割とは

 ラジオモハナンダは既に開局3年目。そこに赴任した安藤さんができることとは何か。それを形にしたのが、「シャプラと桜」という番組です。この番組は月に2回、30分番組として放送されているもので、「日本文化を紹介」「日本語講座」「日本に住む9,000人のベンガル人とスカイプ(インターネット電話)で繋いでトーク」といった内容からなっています。

 もちろん、現地のスタッフとともに、安藤さんがプロデューサー兼パーソナリティとしてベンガル語で番組を担当。特に、日本に住むベンガル人の声は、よりリアルな日本を伝えることができ、東日本大震災から4年を迎える3月には、日本で被災者を助けてくれたベンガル人の方の声を放送する予定だそうです。お互いのことを知ることで、バングラデシュにも誇れる文化・幸せがあるように、日本にも誇れる文化・幸せがあることを知る。比較することで、世界が広いことを理解でき、繋がる...。

 番組名の「シャプラと桜」。シャプラとはバングラデシュの国の花(スイレン)、そして桜は日本を代表する花。それぞれの国に美しい花があるように、それぞれに幸せの形や文化がある。その架け橋になることができたら。

一方通行ではなく相互理解へ

 日本の文化をバングラデシュの放送局で伝える一方で、安藤さんは、バングラデシュの文化も日本に伝えています。北海道のテレビ局で勤務されていた縁から、札幌の「FMドラマシティ」と、出身の地である岐阜県の「FMらら」、この2つのコミュニティFMラジオ局で定期的に、バングラデシュからの声を伝え続けています。

 バングラデシュ入りする前は「貧しい途上国」という印象を持っていたという安藤さん。しかし、いざ飛び込んで、ベンガル人の方と一緒に働き、お芝居を見て、伝統楽器の演奏を聴き、本当にたくさんの食事をごちそうになり、一方で断食もして溶け込んだことで、その現場から感じた「幸福感」と「尊敬できる文化」。実際に現場で体感して日本と比較することで見えてきたのは、文化や発展の上下関係ではなく、幸せの形の違い。

FMドラマシティに向けて現地の子どもの声を生放送する様子

 どの国にも尊敬できる文化があり、それを互いに理解することができれば、どの国の人とも親近感を持つことができるのではないか。「知る」「理解する」ことで、この世界全体を幸せにできるのではないか。

 地域の小さな放送局だからこそ、地域に寄り添い密接に関係できる。小さいからこそできること。コミュニティFMラジオ局だからこそできること。選択肢の多さ、ラジオメディアの存在感、そこに違いはあるものの、「なぜコミュニティFMラジオが存在しているのか」。実はその意味は、日本もバングラデシュも変わらないのではないでしょうか。

コミュニティFMラジオの存在意義と安藤さんのこれから

 地域のためにできること。地域の視点で世界に発信できる、コミュニティFMラジオというメディア。バングラデシュはNGOによる運営ですが、日本の場合は、営利企業であるところが多く、経営をしていかなければならないという現実はありますが、大義を全うすることが、その現実に立ち向かう手段となり得るのかもしれません。

FMららではこれからも月2回バングラデシュからの安藤さんのレポートを放送

 安藤さんの任期は残り1年。今後は、相互理解はもちろんのこと、健康問題に取り組むために、日本の「ラジオ体操」のような、国民的な体操を作って浸透させることでも、バングラデシュに貢献していきたいとのこと。任期が終わった後は、さらに他の国の現場も体感して、いつかまた、日本の放送局に戻って、報道の仕事に携わりたいそうです。

 北海道のFMドラマシティでは月に1回、土曜午後3時から「おーい!どさんこ」のなかで、岐阜のFMららでは、春からは放送時間が変更になるそうですが、今後も月2回「えりちゃんのバングラポチョンドコリ」が放送されます。地域の放送局から流れる、遠い異国の文化を感じることで「幸せとは何か」を考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

取材協力

FMらら
・安藤恵理子さん

ラジオモハナンダ(バングラデシュ・チャパイナワブゴンジ県)


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