トッピーの放送見聞録

日本初・コミュニティFMの新しい形になるか…在日ブラジル人向け専門放送局-トランスアメリカ

記事公開日:2007年1月30日

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 この「トッピーの放送見聞録」では、名古屋市周辺にあるコミュニティFM放送局について取り上げたことがありました。コミュニティFMとは市区町村単位で放送するFM局で、その名の通り地域に密着した放送を行っています。

 全国には200を越える放送局があるのですが、そのなかに一つだけ、放送内容を一新し、在日ブラジル人に目を向けた放送局があります。名古屋市中区を放送対象地域とする「トランスアメリカインターナショナル放送」です。

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FM DANVOが大転換

 かつては「DANVO」という局名で、広域局に準じた放送内容だったのですが、昨年大きな動きがあり、番組編成だけではなく、放送局の愛称や番組製作体制がガラリと変わってしまうという大転換がありました。DANVOからトランスアメリカへの移行という事例から、コミュニティFMの「限界」と「可能性」を見ていきます。

 中区大須。ゲインビルの2階にその放送局はあります。正式社名は「名古屋中エフエムラヂオ放送」。出資者には同じビルにある月刊Kellyを発行しているゲインや、サンデーフォークなど地元の有名企業が名を連ねています。

FM DANVOとはどんな放送局だったのか

1998(H10)年5月の開局時や、2000(H12)年4月の20w増力時などには大々的に広告が打たれ、名古屋有数の繁華街である大須に構えた本社の壁にも大きく「DANVO わっと驚く20ワット」とディスプレイされ、ラッピングバスも走らせるなど、FM AICHIやZIP-FMなどの県域局と同じように派手で大胆な広告戦略をとっていました。

 県域局のようだったのは広告だけではありません。編成もコミュニティFMとは思えない充実ぶり。若者にターゲットを絞り、朝7時から深夜3時まで全て自前の番組をラインナップ。名古屋地元のタレントから、吉本興業所属の芸人、さらには高校生や大学生までもが出演するというバラエティ色豊かな編成となっていました。

地の利の良さからエリアも広く、名古屋市中区どころか郊外の周辺都市でも聞くことができ、中区のコミュニティFMというよりは、AMとFMの中間にあたる新しいスタイルの「名古屋の放送局」ができたという印象で、聴取者としてはまさに理想のコミュニティFM局に見えました。

 当時私は大学を卒業して就職したばかりで、自分の所属していた大学のサークルの後輩たちがDANVOに出演しているのを聞きながら、その環境をうらやましく思ったものです。

続かなかった理想の県域風コミュニティFM局

 しかし、その「理想」は長続きしませんでした。それだけの広告費と制作費を賄うほどのスポンサーが集まらなかったのでしょう。ある日突然、DANVOは1日の放送時間をわずか数時間に削減します。その他の時間はずっと番組宣伝がループで流れるという状況。タイムテーブルのDJの名前欄に「募集中」と書かれている時間帯があるほどでした。地元の企業が資金面で大きくバックアップした"ミニ県域局"は、とうとう息切れを起こしてしまったのです。

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在日ブラジル人向けに特化

 そんなDANVOに、ある会社が手を差し伸べました。web製作会社の「ヴォイクスジャパン」です。この会社は、ブラジルにて初めて全国ネット放送を実現し、ブラジル人にとっては最もメジャーな放送局である「Transamerica」から、その全番組のブラジル国外での放送権を取得していました。DANVOは、愛・地球博が閉幕した2005(H17)年9月から一部の時間で、トランスアメリカの番組の放送を開始しました。そして2006(H18)年6月30日、運命の日がやってきました。

 その日、名古屋中エフエムラヂオ放送は株主総会を行い、ヴォイクスジャパンがDANVOの筆頭株主となることを承認。翌7月1日から番組制作の全てをヴォイクスジャパンに委託し、全国で初めて、在日ブラジル人に向けた情報を常時発信する放送局へと転換することを決定したのです。ミニ県域局という、コミュニティFM局にとってある種理想とも言えるはずの方向性が、失敗であったことが明らかになった瞬間です。

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 ヴォイクスジャパンは2006(H18)年2月にトランスアメリカインターナショナル放送株式会社を設立。といっても、名古屋中エフエムラヂオ放送(DANVO)を乗っ取ったわけではありません。トランスアメリカインターナショナル放送はあくまでも番組制作会社。

 現在も、DANVOの電波に24時間トランスアメリカ製作の番組が乗っかっている状態です。トランスアメリカはDANVOだけに番組を供給しているわけではなく、FM豊橋(豊橋市)、FM HARO(浜松市)、FMおかざき(岡崎市)やRADIO LOVEAT(豊田市)、FM TARO(群馬県太田市)、でんでん(可児市)、FMわっち(岐阜市)、PORTWAVE(四日市市)にも供給を行っています。

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 トランスアメリカは次々と戦略的に運営を進めていきます。中日新聞から日本語でニュース配信を受け、ポルトガル語に翻訳して中日新聞ニュースとして放送したり、24時間インターネットで放送を配信したり、さらには衛星放送「モバHO!」で全国に向けて放送を発信するなど、全国に住む30万人を越える在日ブラジル人を対象として、名古屋のコミュニティFM事業を中核としつつも、それだけには留まらない展開を行っています。

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土壌はできたけれども どうビジネスにするか…

 在日ブラジル人の数は愛知県がトップ。静岡、三重、長野、岐阜と上位5県はこの地方が中心。名古屋を中心として全国展開をするという戦略は、理に適ったものなのです。ブラジル人が参加するイベントで積極的にPR活動を行っており、名古屋近郊在住のブラジル人の間では「日本でもトランスアメリカが聞ける」と評判になり、急速に知名度が上がっています。

 トランスアメリカインターナショナル放送の取締役ゼネラルマネージャー兼COOの小笠原さんにお話を伺いましたところ、放送というのは「きっかけ」と「いつでも接することができる」ことと「内容」の3つが揃っていないと成り立たない、今やっとその土壌ができたところ、今後いかにビジネスとして次の一手をどう打つのかが重要とのことでした。

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 全国の在日ブラジル人に向けて、本国で最も人気のある放送局名でセンスよく音楽とニュースを提供する。確かに理想は高く、地域のコミュニティFMという枠を越えた、新たな在日ブラジル人というコミュニティ向けの放送として重要な存在になり得そうです。

 しかし、DANVOの前例がどうしても頭をよぎります。確かに理想は高いです。その理想をいつまで掲げ続けることができるか、維持することができるか、そしてそれをいかにビジネスとして成り立たせることができるか...。

 コミュニティFMの難しさを本当に感じます。名古屋市中区という地域コミュニティを対象としたDANVO。しかし名古屋の県域局も名古屋市中区発信であり、中区の人から見れば、どちらも同じ中区発信であり、コミュニティFM局と県域局の違いは視野の広い狭いとしか受け取れなかったのかもしれません。そもそも中区という都心に住む人々が、果たしてどれだけ地元に愛着をもって生活をしているのかという疑問もあります。DANVOが失敗に終わってしまったのは、そういった負の歯車が噛み合ってしまったことによるのでしょう。

 日本初の試みとして未知の大海原に漕ぎ出たトランスアメリカ。順風満帆となってさらに船を先に進めることができるか注目です。間違っても、再びミニ県域局という方向に舵を取るようなことになれば、今度こそ名古屋から「76.5」が消えることになるのではないでしょうか。

追記

2009(H21)年4月1日より突然無音に。4月7日には停波。電話も通じず。しかし総務省からは何も発表が無いという状態が続いています。
2009(H21)年7月17日、株主総会で解散を決定。廃止へ。

関連情報

トランスアメリカインターナショナル放送

取材協力

KAZ Communications

トランスアメリカインターナショナル放送(名古屋・中区)MAP

愛知県名古屋市中区大須3-8-1

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